こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております、
甘草附子湯についてです。

甘草附子湯

 

甘草附子湯
甘草附子湯


右図のごとく腹臍上の動気つよく、息セカセカとして心下くるしく、
之を按せば腹皮軟にして力なし。
外證は、骨節疼、掣痛して屈伸すべからず。
手を近づければ痛いみ劇しく、
衣被のさわるをも懼れ、
汗出、小便利せず、悪風もしくは悪寒、身微腫するを、
甘草附子湯の腹状外證具るものとす。
證に曰く。
「風湿の相に搏ち、
骨節疼煩掣痛し屈伸するを得ず、之を近ければ則ち痛み劇しく、
汗出で、短気、小便利せず、悪風し衣を去ることを欲せず、
或は身微腫する者は、甘草附子湯之を主る」
(湿は、しめるなり。
水といわずして湿というは、水の如く腫れても、
之を按すに其の痕は凹まず、
但皮肉のしまり無くグサグサとし、
肌膚を湿すが如くなるを以って、湿と名づく。
俗に呼んで「わるぶとり」というのは類、皆湿證とすべきなり。
是れ亦、正気のはり弱きを以って水気之に乗ずるものゆえ、
後世・気虚の候とするなり。)
さて、風湿相搏つというは、
其の人、素に湿気あるところへ風邪を感冒して、
風邪と湿気と相斗うを以って名くるなり。
骨節疼煩は、節々疼き痛みて熱れもやつくなり。
掣は「ひく」なり。
後より引き止むる如く痛むなり。
びっくりする痛みをいう。
「屈伸することを得ず」の句は。
骨節疼煩と応ず。「之を近づく」とは、
手を疼所に近づけるなり。
(註 屈折できない骨節を無理に屈げること。)
汗出るは、風邪相搏てばなり。
短気は、呼吸短かく急迫するなり。
小便利せざるは、気・衝逆して下降せざるによる。
悪風尋常より重きを示さんが為に、
「衣を去ることを欲せず」の一句を補添したるなり。
微腫は、何となく腫れたるようなるをいう。
乃ち湿気の候なり。
いずれも風邪湿気相搏つの證なり。
此の證、汗出・短気、
表證にして衝逆急迫するを以って、
桂枝・甘草あり。
悪風・骨節疼煩・小便不利等の證あるゆえ、
朮・附を相伍す。
而して、附子の分量多きは、
外證劇しく内寒あるを以ってなり。
凡そ内寒あるものは、
右の小腹結聚し腹皮軟弱なるものなり。


【甘草附子湯:組成】

甘草(かんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用:去痰・鎮咳・抗炎症
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



附子(ぶし)

附子
附子

キンポウゲ科のハナトリカブトの塊根。
性味:大熱・辛
帰経:肺・心・脾・腎
主な薬効と応用:鎮痛・強心作用・利用
①回陽救逆:大量の発汗や激しい下痢・激しい嘔吐などによる
亡陽虚脱の時に用いる。
方剤例⇒四逆湯
②補陽益火:
腎陽虚による腰・膝のだるさ・頻尿などの症候が現れた時に用いる。
方剤例⇒八味地黄丸
③温陽利水:腎陽虚による肢体の浮腫・腰痛や膝痛の時などに用いる。
方剤例⇒真武湯
④散寒止痛:痺証による関節の痛みや痺れ・冷えなどに用いる。
方剤例⇒甘草附子湯
備考:辛熱燥烈なので、陰盛陽衰で服用する。
陰虚内熱時には使用してはならない。



桂枝(けいし)

桂枝
桂枝

クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯
②温通経脈:風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯
③通陽化気:脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯
④平衡降逆:心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯
備考:麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。



白朮(びゃくじゅつ)

白朮
白朮

キク科のオオバナオケラの根茎。
日本では周皮を除いた根茎が出回る。
性味:甘・苦・温
帰経:脾・胃
主な効能と応用:
①健脾益気:脾気虚で運化が不足して食欲不振・泥状~水様便
腹満・倦怠無力感などを呈する時に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②燥湿利水:脾虚で運化が不足し水質が停滞したための浮腫
尿量減少あるいは泥状~水様便などに用いる。
方剤例⇒防已黄耆湯
③固表止汗:表虚の自汗に用いる。
方剤例⇒玉屏風散
④安胎:胎動不安(切迫流産)すなわち妊娠中の腹痛
性器出血などの症候時に用いる。
備考:補脾益気・燥湿利水の効能など、健脾の要薬となる。


【甘草附子湯:効能】
太陽と少陰の間で虚証の者に用いることができる。
温経袪湿袪風和営の効能がある。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧翼 二編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004922

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多

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