転機が訪れ約4年。
早いものです。
背中を押して頂き感謝です。
今ではそう思えます。
ありがとう。


薏苡附子敗漿散

薏苡附子敗漿散
薏苡附子敗漿散

図の如く腹腫るること脹満に似たり。其の膚甲錯、腹皮急し、之を按ずるに軟なり。
甲錯は、鏨の錯わりたる如く手に当りて粗きものなり。此の證、世に間あり。
方證相対して攻めざるときは、年月を経ると雖も治せず。
往年、浪華・谷街某の妻、歳二十六、七。此の證あり。
治せざること三年、衆医皆手を束ねて治療の術を失う。
後、余に治を請う。往きて診するに、腹満して身重く胎孕の如く、
必ずしも蓐臥することなけれども、心煩して歩行すること能わず。
余、その頃、腹診未熟なる故、誤って腹満なるものとして、
大承気湯を以って之を攻むるに功なし因て大柴胡湯を与うること、
凡そ半年余なるも始に変ることなし。
是に於て病家その功なきを以って憮然として謂って曰く。
「足下、平常大言を吐く。然れども今その験なし。
然るときは、他医亦、いずくんぞ治すべけんや。生涯廃人たらんこと疑いなし。
嗚呼、悲●に堪えず」と。
余、之を聞いて、其の言行一致せざることを愧じて、鶴先生に告ぐ。
先生、乃ち往いて之を診し大いに余を責めて曰く。
「汝、吉医の術、未熟なるが故に、病者あらば必ず我に告げて、
而る後に治療を施すべしと云いおけり。
然るに、汝、我が言を用いず、自是として、
其の腹證を審らかにせず、妄りに是くの如き峻剤を投じ病者を苦しましむ。
術を慎まず師を侮るの罪、大なり。
世に汝が如き拙技の者ありて、大いに我が古医道を紊る。
悪むべし哀しむべきの甚だしい哉」と。
因って教えて曰く。
「此の證、膚甲錯、腹皮急、之を按ずれば軟なるもの、是れ薏苡附子敗漿散の證なり。
汝が先に用ゆる所の大承気湯の證、何くにか在る哉。汝、是を以って後来の誡とし、
軽忽を謹しむべし」と。余、大いに其の罪を謝し、教に従って右の方を与う。
二旬許りにして其の疾、頓に愈ゆ。余、因って、深く腹證の易々ならざるを暁り、
玆より益々精研して、後来、大いに術に進むことを得たり。


【薏苡附子敗漿散:組成】

薏苡仁(よくいにん)

イネ科のハトムギの種皮を除いた成熟種子。
性味:甘・淡・微寒
帰経:脾・胃・肺
主な薬効と応用:
①清利湿熱:湿熱内蘊による水腫・尿量減少などに用いる。
方剤例⇒三仁湯
②祛湿除痺:湿熱痺の関節痛、強張りなどに用いる。
方剤例⇒宣痺湯
③健脾止瀉:脾虚湿困の泥状〜水様便に用いる。
方剤例⇒参苓白朮散
備考:生用すると清利湿熱、炒用すると健脾止瀉に働く。

附子(ぶし)

附子
附子

キンポウゲ科のハナトリカブトの塊根。
性味:大熱・辛
帰経:肺・心・脾・腎
主な薬効と応用:鎮痛・強心作用・利用
①回陽救逆:大量の発汗や激しい下痢・激しい嘔吐などによる
亡陽虚脱の時に用いる。
方剤例⇒四逆湯
②補陽益火:腎陽虚による腰・膝のだるさ・頻尿などの症候が現れた時に用いる。
方剤例⇒八味地黄丸
③温陽利水:腎陽虚による肢体の浮腫・腰痛や膝痛の時などに用いる。
方剤例⇒真武湯
④散寒止痛:痺証による関節の痛みや痺れ・冷えなどに用いる。
方剤例⇒甘草附子湯
備考:辛熱燥烈なので、陰盛陽衰で服用する。
陰虚内熱時には使用してはならない。

敗漿草(はいしょうそう)

オミナエシ科のオミナエシおよびオトコエシの根を付けた全草。
性味:辛・苦・微寒
帰経:肝・胃・大腸
主な薬効と応用:
①清熱解毒・消腫排膿:腸廱(虫垂炎など)に用いる。
方剤例⇒腸廱方
②活血行瘀:血熱瘀滞による胸痛、腹痛などに用いる。
備考:熱毒の血瘀のみに用いる。


【薏苡附子敗漿散:主治】

腸廱が慢性化して化膿している時に用いる。
清熱排膿の薏苡仁と排膿破血の敗漿草を主とする。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧 正編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004913

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

本多

返事を書く

Please enter your comment!
Please enter your name here