こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に記載している、
甘草瀉心湯の證の記事を掲載致します。


甘草瀉心湯

甘草瀉心湯
甘草瀉心湯


図の如く、
半夏瀉心湯の證にして心煩し心気安らからざる者、此の證の主なり。
余、案ずるに、之に心煩と云うもの、甘草の證なり。
甘草は急迫を弛める能あり。
カツハラを診察するに、心胸急迫して心煩するを知るべし。
其の心煩すること一ならず、
或は苦満して心煩する者は、柴胡の證を考うべし。
只煩する者は、黄連の證と知るべし。
此の證、心胸引張り迫るを指頭に覚ゆ。
即ち、急迫して心煩し安らからざる者、是なり。
且つ外症は、その人、心重く眠を好むも目を閉ること能わずして、起臥安からず。
或は飲食を欲せず、又、食臭を聞きて悪む。
且つその人、気の放たる如く精神正しからざるものあり。
是れ所謂、蠱惑病の類にして、
俗に「物の怪」を病むと云うが如く心気を失うに似たるを云う。
是を以って考うるに、
此の證ならば蠱惑病と名づくるも当れりとすべし。

甘草瀉心湯の方
甘草(七分)
半夏(九分)
黄連(一分半)
黄芩・乾姜・大棗・人参(各四分半)
右七味、煎法煎法と同じ。


【甘草瀉心湯:組成】

甘草(かんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用
①補中益気:
脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯

②潤肺・祛痰止咳:
風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯

③緩急止痛:
腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯

④清熱解毒:
咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯

⑤調和薬性:
性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。

備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



半夏(はんげ)

半夏
半夏

サトイモ科のカラスビシャクの塊茎。
性味:辛・温・有毒
帰経:脾・胃
主な薬効と応用:鎮静・鎮咳・去痰
①燥湿化痰:
湿痰の咳嗽・多痰・胸苦しさ、或いは痰濁上擾による
眩暈・不眠・悪心などの症候時に用いる。
方剤例⇒二陳湯

②降逆止嘔:
胃寒・胃熱・胃虚による嘔吐時に用いる。
方剤例⇒胃寒による嘔吐→小半夏湯
胃熱による嘔吐→黄連橘皮竹筎半夏湯
胃虚による嘔吐→大半夏湯

③消痞散結:
痰熱による心窩部の痞えなどに用いる。
方剤例⇒半夏瀉心湯

備考:辛散温燥のため、陰虚の燥咳・傷津の口渇・出血には用いてはならない。



黄連(おうれん)

黄連
黄連

キンポウゲ科のオウレン属の根茎。
性味:苦・寒
帰経:心・脾・肝・胆・胃・大腸
主な薬効と応用:健胃・利胆・鎮痙
①清熱燥湿:
大腸湿熱の下痢・裏急後重などに用いる。
方剤例⇒芍薬湯

②清熱瀉火:
熱入心包の高熱・意識障害・うわごと・
煩燥などの症候時に用いる。
方剤例⇒牛黄清心丸

③清熱解毒:
熱毒による高熱・煩燥・目の充血・腫痛・
咽喉腫痛・皮下出血・嘔吐などの症候に用いる。
方剤例⇒黄蓮解毒湯

備考:
苦寒のため、多量を用いると胃を損傷する。
湿熱や実火でないものや脾胃虚寒には禁忌である。



黄芩(おうごん)

黄芩
黄芩

シソ科のコガネバナの周皮を除いた根。
内部が充実し、細い円錐形をしたものを条芩、桂芩、尖芩などと称し、
老根で内部が黒く空洞になってものを枯芩、
さらに片条に割れたものを片芩と称する。
性味:苦・寒
帰経:肺・脾 ・大腸・小腸・胆
主な効能と応用:
①清熱燥湿:
湿温・暑温初期の湿熱欝阻気機による、
胸苦しい・腹が張る・悪心・嘔吐・尿が濃いなどの症候に用いる。
方剤例⇒黄芩滑石湯

②清熱瀉火・解毒・凉血:
肺熱の咳嗽・呼吸促迫・黄痰などの症候時に用いる。
方剤例⇒清肺湯

③清熱安胎:
妊娠中の蘊熱による下腹痛などに用いる。
方剤例⇒当帰散

備考:他薬の配合により様々な効用を示す。
柴胡と往来寒熱を除き、白芍と下痢を抑え、桑白皮と肺火を除き、
白朮と安胎に働き、山梔子と胸膈火熱を除き、荊芥・防風と肌表の熱を清解する。



乾姜(かんきょう)

乾薑
乾薑

ショウガ科のショウガの根茎を乾燥したもの。
性味:大辛・大熱
帰経:心・肺・脾・胃
主な薬効と応用:解熱・鎮痛・鎮咳・抗炎症
①温中散寒:
脾胃虚寒で腹が冷えて痛む・腹鳴・
不消化下痢・嘔吐などの症候時に用いる。
方剤例→理中湯

②回陽通脈:
陽気衰微・陰寒内生による亡陽虚脱で、
四肢の冷え・脈が微弱などの症状時に用いる。
方剤例→四逆湯

③温肺化痰:
肺の寒陰による咳嗽・呼吸困難・
希薄な多量な痰・背部の冷感などの症候時に用いる。
方剤例→小青竜湯

備考:辛熱燥烈のため、陰虚内熱・妊婦には禁忌とする。



大棗(たいそう)

大棗
大棗

クロウメモドキ科の棗(なつめ)の果実。
性味:温・甘
帰経:脾
主な薬効と応用:鎮静・抗アレルギー
①補脾和胃:
脾胃虚弱の倦怠無力・食欲不振・泥状便などの症状に用いる。
方剤例⇒六君子湯

②養営安神:
営血不足による不眠・不安感などに用いる。
方剤例⇒甘麦大棗湯

③緩和薬性:
薬力が強力な薬物に配合し、性質を緩和し脾胃の損傷を防止する。
方剤例⇒十棗湯
備考:湿盛の脘腹脹満・食積・虫積・齲歯・痰熱咳嗽などには禁忌となる。



人参(にんじん)

人参
人参

ウコギ科のオタネニンジンの根。
性味:甘・微温・微苦
帰経:肺・脾
主な薬効と応用
①補気固脱:
大病・久病・大出血・激しい嘔吐などで
元気が虚衰して生じるショック状態時に用いる。
方剤例⇒独参湯

②補脾気:脾気虚による元気がない・疲れやすい・食欲不振、
四肢無力・泥状~水様便などの症候時に用いる。
方剤例⇒四君子湯

③益肺気:
肺気虚による呼吸困難・
咳嗽・息切れ(動くと増悪する)・自汗などの症候時に用いる。
方剤例⇒人参胡桃湯

④生津止渇:
熱盛の気津両傷で高熱・口渇・多汗・
元気がない・脈が大で無力などの症候時に用いる。
方剤例⇒白虎加人参湯

⑤安神益智:
気血不足による心身不安の不眠・
動悸・健忘・不安感などの症候時に用いる。
方剤例⇒帰脾湯

備考:
生化の源である脾気と一身の気を主る
肺気を充盈することにより一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。
すべての大病・久病・大出血・大吐瀉による元気虚衰の
虚極欲脱・脈微欲脱に対して最も主要な薬物。


【甘草瀉心湯:主治】
益気和胃消痞止嘔の効能がある。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧 後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004918

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多

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