こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております、
桃核承気湯についてです。

桃核承気湯

桃核承気湯
桃核承気湯


図の如く、左の臍傍、天枢の辺りより上下、
二・三の間、三指深り按するに、結するものあるを得、
之を邪按するに、痛み甚だしく、
上へ引きつり痛むことを覚えるものを桃核承気湯の腹證とす。
或は臍上、或は臍下も亦結張る流もの有りて之を按して痛むといえども、
此の左の臍傍に得るものを以て正候として、
臍上臍下に及ぶものは其の結の甚だしきものと知るべし。
但だ、之を按して結ぶものを得るといえども、
痛み覚えざるものは、急結にあらず。
又、之を按して痛み甚だしといえども、
其の結ぶもの、指頭にさわりて耎なるきみを覚えるものは、
血結といえども、此の方の證にあらず。
又、之を按して、痛み腰背少腹に惹くものは、此の證にあらず。
当帰建中湯、当帰芍薬散、芎帰膠艾湯、猪苓湯の類の腹證とまぎれやすし。
各方に委しくす。且つ其の結、大小ありて、一定すべからず。
蒼卒に診過すべからず。この結、乃ち瘀血にして、胸腹に逆上す。
甚だしきものは、脇下に迫り、胸脇より背に徹して痛み、其の證発作あり。


【桃核承気湯:組成】

桃仁(とうにん)

桃仁
桃仁

バラ科のモモやノモモなどの成熟種子。
性味:苦・甘・平
帰経:心・肝・大腸
主な薬効と応用:
①破瘀行血:血瘀による無月経・
月経痛・腹腔内腫瘤などを呈するときに用いる。
方剤例⇒桃紅四物湯
②潤腸通便:腸燥通便による便秘時に用いる。
方剤例⇒五仁湯
備考:桃仁・杏仁は止咳平喘・潤腸通便の効能をもつが、
杏仁は気分に偏し降気消痰に優れ、
桃仁は血分に偏し破瘀生新に優れている。



大黄(だいおう)

大黄
大黄

タデ科のダイオウ属植物の根茎や根。
性味:苦・寒
帰経:脾・胃・大腸・肝・心包
主な薬効と応用:緩下・駆瘀血
①瀉熱通腸:胃腸の実熱による、
便秘・腹痛・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱瀉火:火熱上亢による、
目の充血・咽喉の腫痛・鼻出血など上部の火熱の症候に用いる。
方剤例⇒三黄瀉心湯
③行瘀破積:血瘀による無月経や腹痛時に用いる。
方剤例⇒復元活血湯
④清火湿熱:湿熱の黄疸時に用いる。
方剤例⇒茵蔯蒿湯
備考:生用すると瀉下の働きが強くなり、
酒を吹きかけ火で焙ると上部の火熱を清し活血化瘀の働きが強くなり、
酒とともに蒸すと瀉下の力が緩やかになり、
炒炭すると化瘀止血に働く。



桂枝(けいし)

桂枝
桂枝

クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯
②温通経脈:風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯
③通陽化気:脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯
④平衡降逆:心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯
備考:麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。



炙甘草(しゃかんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用:去痰・鎮咳・抗炎症
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



芒硝(ぼうしょう)
天然の含水硫酸ナトリウム。
性味:鹹・苦・寒
帰経:胃・大腸・三焦
主な薬効と応用:緩下・利尿
①瀉熱通便:胃腸の実熱、燥屎内結による、
腹満・腹痛・便秘・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱消腫:咽喉のびらんや腫脹、口内炎などに用いる。
方剤例⇒冰硼散


【桃核承気湯:効能】

『傷寒論』に記載されている原文を一部抜粋する。

太陽病不解、熱結膀胱、
其人如狂、血自下、下者愈。
其外不解者、尚未可攻、
当先解其外。外解巳、但少腹急結者、
乃可攻之、宣桃核承気湯。
方五十六。

「太陽病解せず、熱膀胱に結し、
其の人狂の如く、血自ら下り、下るものは愈ゆ。
其の外解せざる者は、尚未だ攻むべからず、
当に先ず其の外を解すべし。外解し巳り、但だ少腹急結する者は、
乃ち之を攻むべし。桃核承気湯に宜し。
方五十六。」

太陽経に随って邪が腑に入り、
少腹に瘀血が生じた場合に用いることができ、
活血化瘀の効能がある。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『傷寒雑病論』
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧 正編2巻・後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004914

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多

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