入道雲
入道雲

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百七章・二百八章。
二百七章では、陽明病で熱結して、煩が生じた場合の証治について。
二百八章では、陽明腑実証の脉証と攻下法の加減について詳しく述べております。


二百七章

陽明病、不吐不下、心煩者、可與調胃承氣湯。方一。
甘草二兩、炙 芒消半升 大黄四兩、清酒洗
右三味、切、以水三升、煮二物至一升、
去滓、内芒消、更上微火一二沸、溫頓服之、以調胃気。

和訓:
陽明病、吐せず下さず、心煩する者は、調胃承氣湯を与うべし。方一。
甘草二両、炙る   芒消半升  大黄四両、清酒で洗う
右三味、切り、水三升を以て、二物を煮て一升に至り、滓を去り、
芒消を内れ、更に微火に上せること一二沸、温めて之を頓服し、以て胃気を調う。


陽明病、不吐不下、心煩者、可與調胃承氣湯
陽明病でまだ催吐法や攻下法を行っていないのに
煩が生じている場合は実煩である。これは裏熱が胃腑に結した初期で、
まだ潮熱、譫語等大満大実となっていない。胃の絡脉は上行して心を絡している。
つまり熱結が胃にあり、その濁熱が上方をかき乱しているので心煩となっている。
この場合、調胃承気湯を用いて胃気を調和させ、熱を瀉していく。
それにより胃気が調和し、熱が除かれれば心煩は自然に治まっていく。

「可與」の”与えてもよい”という意味は
臨床でその時々に応じて加減しなければいけない意図を含んでいる。
それは熱結の程度が激しくない場合は、
強い攻下法を安易に行い、正気を傷つけないように
注意しなければいけないことを述べている。

調胃承気湯

 

甘草
甘草

甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。

甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・
止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。


・芒硝
基原:天然の含水硫酸ナトリウム
Na2 SO4・10H2O
または風化消Na2SO4・2H2O。
なお古来の芒硝は結晶硫酸マグネシウム MgSO4・7H2Oである。

芒硝は鹹渋・寒で、
鹹で軟堅し苦で降下し寒で清熱し、
瀉熱通便・潤燥軟堅の効能をもち、
胃腸三焦の実熱を蕩滌し燥屎を除去する。
それゆえ、実熱積聚の大便燥結・譫語発狂などを呈する
陽明腑実証や、
陽明の熱が水飲と結した結胸に適する。
外用すると清熱消腫に働き、
癰腫瘡毒・目赤喉腫口瘡などに有効である。

大黄
大黄

大黄
基原:タテ科のダイオウ属植物、
およびそれらの種間雑種の根茎。
しばしば根も利用される。

大黄は苦寒沈降し気味ともに厚く、
「走きて守らず」で下焦に直達し、
胃腸の積滞を蕩滌するので、
陽明腑実の熱結便秘・壮熱神昏に対する
要薬であり
攻積導滞し瀉熱通腸するため、
湿熱の瀉痢・裏急後重や食積の瀉痢・大便不爽にも有効である。
このほか、瀉下泄熱により血分実熱を清し
清熱瀉火・凉血解毒に働くので
血熱吐衄・目赤咽腫・癰腫瘡毒などの上部実熱にも用い、
行瘀破積・活血通経の効能をもつために、
血瘀経閉・産後瘀阻・癥瘕積聚
跌打損傷にも適し、
湿熱を大便として排出し清化湿熱にも働くので、
湿熱内蘊の黄疸・水腫・結胸にも使用する。
外用すると清火消腫解毒の効果がある。

提要:
陽明病で熱結して、煩が生じた場合の証治について。

訳:
陽明病に罹り、まだ催吐法も攻下法も使用しておらず、
いらいらして不穏な状態になったなら、調胃承気湯で治療すればよい。処方を記載。第一法。
甘草二両、炙る   芒硝半斤  大黄四両、清酒で洗う
右の三味は、刻んで、三升の水で、[芒硝を除く]二味を一升になるまで煮て、滓を除き、
芒硝を入れて、弱火で少し沸騰させ、温いうちに頓服して、胃気を調和させる。


二百八章

陽明病、脉遲雖汗出、不惡寒者、
其身必重、短氣、腹滿而喘、有潮熱者、此外欲解、
可攻裏也、手足濈然而汗出者、此大便已鞕也、大承氣湯主之。
若汗多、微發熱惡寒者、外未解也、其熱不潮、未可與承氣湯。
若腹大滿不通者、可與小承氣湯、微和胃氣、勿令大泄下。

大承氣湯。方二。
大黄四兩、酒洗 厚朴半斤、炙、去皮 枳実五枚、炙 芒消三合
右四味、以水一斗、先煮二物、取五升、去滓、
内大黄、更煮取二升、去滓、内芒消、更上微火一兩沸、分溫服、得下余勿服。

小承氣湯方
大黄四兩、酒洗 厚朴二兩、炙、去皮 枳実三枚、大者、炙
右三味、以水四升、煮取一升二合、去滓、分溫二服。
初服湯當更衣、不爾者尽飲之。若更衣者、勿服之。

和訓:
陽明病、脉遅、汗出ずと雖も悪寒せざるものは、
其の身必ず重く、短気、腹満して喘し、
潮熱ある者は、此れ外解せんと欲し、裏を攻むべきなり。
手足に濈然と汗出ずるものは、此れ大便已に鞕きなり。大承気湯之を主る。
若し汗多く、微かに発熱悪寒するものは、外未だ解せざるなり。
其の潮熱ならざれば、未だ承気湯を与うべからず。
若し腹大いに満して通ぜざるものは、小承気湯を与え、
微かに胃気を和すべし。大泄下に至らしむること勿れ。

大承気湯。方二。
大黄四両、酒で洗う   厚朴半斤、炙る、皮を去る  枳実五枚、炙る  芒消三合
右四味、水一斗を以て、先ず二物を煮て、五升を取り、滓を去り、
大黄を内れ、更に煮て二升を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に微火に上せること一両沸、
分かち温め再服し、下るを得れば余は服すること勿れ。

小承気湯方。
大黄四両、酒で洗う   厚朴二両、炙る、皮を去る  枳実三枚、大なるもの、炙る
右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め二服す。
初めて湯を服し当に更衣すべし。爾らざるものは之を飲み尽くせ。
若し更衣するものは、之を服すること勿れ。


陽明病、脉遲雖汗出、不惡寒者、其身必重、短氣、腹滿而喘
汗出して悪寒をしないことから、病はすでに陽明に内伝していることがわかる。
汗出は津気が外に溢れている証候で、その壮熱により気が傷つけられ、
身体を回る気血が壅滞するから、身体が重く感じる。
中焦で熱結して気機が阻塞するために短気となる。
裏熱が化燥により実となり、腹部が膨満して下方から便通が出ないばかりか
上逆するので必ず喘となる。

有潮熱者、此外欲解、可攻裏也、
手足濈然而汗出者、此大便已鞕也、大承氣湯主之
脉が遅いことから、燥熱が内に結して熱壅気滞となったことにより
脉道が阻害されたことを反映したものであるから有力な実脉となっているはずである。
身熱が潮熱に変われば、これは熱邪がことごとく胃腑に入って
実となったということがわかるので、攻下法を行わなければならない。
手足に濈然と汗出し、しかもそれが甚だしい場合は、
症状が総て揃いこの病機に該当するので、
すぐに大承気湯を使用し陰を守るようにしなければならない。

若汗多、微發熱惡寒者、外未解也、其熱不潮、未可與承氣湯
汗出は多いが悪寒がある場合は、熱邪が盛んであると言っても
その熱は潮熱ではなく、この典型的な証とは言えないので、
大承気湯を与えてはいけない。

若腹大滿不通者、可與小承氣湯、微和胃氣、勿令大泄下
腹部に膨満感があり便通が無ければ熱実証であるが、
しかしその熱が潮熱ではなく、汗が手足にまだ出ていなければ
大承気湯を用いて瀉下するほどではない。
この場合は小承気湯で軽く攻下する。

大承気湯

大黄
大黄

大黄
基原:タテ科のダイオウ属植物、
およびそれらの種間雑種の根茎。
しばしば根も利用される。

大黄は苦寒沈降し気味ともに厚く、
「走きて守らず」で下焦に直達し、
胃腸の積滞を蕩滌するので、
陽明腑実の熱結便秘・壮熱神昏に対する
要薬であり
攻積導滞し瀉熱通腸するため、
湿熱の瀉痢・裏急後重や食積の瀉痢・大便不爽にも有効である。
このほか、瀉下泄熱により血分実熱を清し
清熱瀉火・凉血解毒に働くので
血熱吐衄・目赤咽腫・癰腫瘡毒などの上部実熱にも用い、
行瘀破積・活血通経の効能をもつために、
血瘀経閉・産後瘀阻・癥瘕積聚
跌打損傷にも適し、
湿熱を大便として排出し清化湿熱にも働くので、
湿熱内蘊の黄疸・水腫・結胸にも使用する。
外用すると清火消腫解毒の効果がある。

厚朴
厚朴

厚朴
厚朴は苦辛・温で、
苦で下気し辛で散結し温で燥湿し、
下気除満・燥湿化痰の効能を持ち、
有形の実満を下すとともに無形の湿満を散じる。
それゆえ、食積停留・気滞不通の胸腹脹満・大便秘結、
湿滞傷中の胸腹満悶・嘔吐瀉痢に適する。
また、燥湿化痰・下気降逆にも働き、
痰湿壅肺・肺気不降による喘咳にも有効である。

枳実
枳実

枳実
基原:ミカン科のダイダイ、イチャンレモン、カラタチなどの幼果。

枳実は苦寒で下降し、
気鋭力猛で破気消積・化痰除痞に働き、脾胃の気分薬である。
積滞内停・気機受阻による痞満脹痛・便秘・瀉痢後重には、
気血痰食を問わず用いる。
薬力が猛烈であることから、
「衝墻倒壁の功あり」
「消痰癖、祛停水、破結胸、通便閉、これにあらざれば能わざるなり」
といわれている。

芒消
基原:天然の含水硫酸ナトリウム
Na2 SO4・10H2O
または風化消Na2SO4・2H2O。
なお古来の芒硝は結晶硫酸マグネシウム MgSO4・7H2Oである。

芒硝は鹹渋・寒で、
鹹で軟堅し苦で降下し寒で清熱し、
瀉熱通便・潤燥軟堅の効能をもち、
胃腸三焦の実熱を蕩滌し燥屎を除去する。
それゆえ、実熱積聚の大便燥結・譫語発狂などを呈する
陽明腑実証や、
陽明の熱が水飲と結した結胸に適する。
外用すると清熱消腫に働き、
癰腫瘡毒・目赤喉腫口瘡などに有効である。

 

小承気湯

大黄
大黄

大黄
基原:タテ科のダイオウ属植物、
およびそれらの種間雑種の根茎。
しばしば根も利用される。

大黄は苦寒沈降し気味ともに厚く、
「走きて守らず」で下焦に直達し、
胃腸の積滞を蕩滌するので、
陽明腑実の熱結便秘・壮熱神昏に対する
要薬であり
攻積導滞し瀉熱通腸するため、
湿熱の瀉痢・裏急後重や食積の瀉痢・大便不爽にも有効である。
このほか、瀉下泄熱により血分実熱を清し
清熱瀉火・凉血解毒に働くので
血熱吐衄・目赤咽腫・癰腫瘡毒などの上部実熱にも用い、
行瘀破積・活血通経の効能をもつために、
血瘀経閉・産後瘀阻・癥瘕積聚
跌打損傷にも適し、
湿熱を大便として排出し清化湿熱にも働くので、
湿熱内蘊の黄疸・水腫・結胸にも使用する。
外用すると清火消腫解毒の効果がある。

厚朴
厚朴

厚朴
厚朴は苦辛・温で、
苦で下気し辛で散結し温で燥湿し、
下気除満・燥湿化痰の効能を持ち、
有形の実満を下すとともに無形の湿満を散じる。
それゆえ、食積停留・気滞不通の胸腹脹満・大便秘結、
湿滞傷中の胸腹満悶・嘔吐瀉痢に適する。
また、燥湿化痰・下気降逆にも働き、
痰湿壅肺・肺気不降による喘咳にも有効である。

枳実
枳実

枳実
基原:ミカン科のダイダイ、イチャンレモン、カラタチなどの幼果。

枳実は苦寒で下降し、
気鋭力猛で破気消積・化痰除痞に働き、脾胃の気分薬である。
積滞内停・気機受阻による痞満脹痛・便秘・瀉痢後重には、
気血痰食を問わず用いる。
薬力が猛烈であることから、
「衝墻倒壁の功あり」
「消痰癖、祛停水、破結胸、通便閉、これにあらざれば能わざるなり」
といわれている。

提要:
陽明腑実証の脉証と攻下法の加減について。

訳:
陽明病に罹り、脉は遅で、汗は出ているが悪寒がなければ、
患者は必ず身体が重だるく感じ、息切れし、腹部は膨満して息が喘ぐようになっている。
そして潮熱が現れると、表証はやがて除かれることが示唆され、
攻下法を用いて裏証を治療してよい。手足に絶え間なく汗が出ていれば、
大便は己に硬く結している証拠で、大承気湯で治療するとよい。
もし発汗がもっと多く、しかも軽度の発熱悪寒が伴っていれば、
表証はまだ解除されていないことが示唆され、
発熱があってもそれが潮熱でなければ、大承気湯を用いてはならない。
もし腹脹が顕著で大便が通じていないなら、
小承気湯で治療するのが適当で、少し胃気を調和するだけで充分であり、
過度の瀉下は禁物である。大承気湯。処方を記載。第二法。

大承気湯。方二。
大黄四両、酒で洗う   厚朴半斤、炙る、皮を除く  枳実五個、炙る  芒消三合
右の四味は、一斗の水で、まず二味を、五升になるまで煮て、滓を除き、
大黄を入れ、二升になるまでさらに煮て、滓を除き、芒消を入れ、さらに弱火で少し煮たたせ、
二回に分けて温服し、下痢すれば残りは服用しない。

小承気湯方。
大黄四両、酒で洗う   厚朴二両、炙る、皮を去る  枳実三個、大きいもの、炙る
右の三味を、四升の水で、一升二合まで煮て、滓を除き、二回に分けて温服する。
第一服目で大便は出るはずであるが、もし出なければ第二服目も服用する。
もし大便が出れば服用しない。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
為沢 画

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是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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