この傷寒論のシリーズは、
当院の修行生によって毎週、水曜日の早朝に開かれる、
自主的な勉強会におけるメモ・備忘録となります。
古典の専門家によるものではなく、
一から学ぶ者の新鮮な目線を共有出来れば幸いに思います。



1/11(水)
太陽病中篇より

 


(65条)発汗後、其人臍下悸、欲作奔豚、茯苓桂枝甘草大棗湯主之。

発汗後に臍下に動悸を感じるのは
奔豚という病になろうとしている状態で、
この場合は茯苓桂枝甘草大棗湯が主治するという内容である。

さて、奔豚とはどのような病だろうか。
難経では、奔豚はもともと脾の病であるという記述がある。
脾の病が腎に伝わることで下腹に積を作るが、
夏場は心気がさかんであり邪を受けず、脾に邪を返すが
脾も邪を受けず、下腹に邪を返すことで
腎積を作ることが奔豚の成因のひとつのようである。

金匱要略では
奔豚は七情の一つである「驚(きょう)」によるとある。
以上から、奔豚は、腎積に驚を受けると発症するとも考えられる。
ちなみに、傷寒論には記述のない
「奔豚湯」という方剤についての記述が金匱要略にあった。

腎積について、素問の拳痛篇(第39)に
それとみられる記述がる。
ここでは衝脉に寒邪が入り脉が不通になることで起こるとある。
腎積そのものの記述はないが、おそらく
腎積の成因についての記述であろう。

奔豚の症状は、臍下(少腹)の動悸が
胸に突き上げてくるというもので、
現代のヒステリー発作、激しい動悸の症状に
相当するようである。

解説本の多くは、発汗後に「心陽不振」がおこり
水飲内停が起こるとある。
そのために桂枝・甘草を含む
茯苓桂枝甘草大棗湯を用いるとしている。
これはおそらく前条の桂枝甘草湯の条文からの流れを
重視したことによるものだろう。

しかし桂枝・甘草は、
心陽を高めるはたらきというよりも
全身の陽気を整えるものである。
また、65条の条文全体をみても
心陽が弱っているとする記述は無い。

本当に心陽不振があるとすれば、
もともと心気・心陽が不足し、
発汗をすると、より心気・心陽の虚が進行することで
生命活動を脅かすような症状が出るはずである。
よって、ここで「心陽不振」がおこるとする多くの解説は、
疑問が残る。


参加者:下野、新川、大原、盧

 

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