下野です。

久しぶりの『万病回春』の記事になります。
今回ご紹介する生薬には、
この梅雨時期に効果を発揮して
くれそうなものが出て参ります。

では「薬性の歌」に参りましょう。


【原文】
蒼朮甘温、健脾燥湿、発汗寬中、更袪瘴疫。
米泔水浸二宿、搓去黒皮切片。
厚朴苦温、消脹除満、痰気瀉痢、其功不緩。
去粗皮姜汁浸炒、亦有生用者。
南星性熱、能治風痰、破傷自強、風搐皆安。
生姜湯泡透切片、姜汁浸炒用。一両研末臘月黒牯牛胆、将末入、撹均懸風處吹乾、名牛胆南星。
半夏味辛、健脾燥湿、痰厥頭疼、嗽吐堪入。
藿香辛温、能止嘔吐、発散風寒、霍乱為主。

<第十一に続く>


【解説】
蒼朮は甘温。
脾を健て化湿して鬱滞を捌く。
瘴疫(熱病)を祛る働きもある。
米のとぎ汁に二晩浸し、黒皮を去り切片とする。

厚朴は苦温。
胸腹の脹満や痰気、下痢に用い、
その効力は強い。
粗皮を去って姜汁に浸して炒る。生食用もある。

南星の性は熱。
風痰の病に効果があり、
破傷風や体の硬直、驚風に。
生姜湯でふやかし切片にし、姜汁に浸し炒める。雌牛の胆汁で製したものを、胆南星と言う。

半夏の味は辛。
健脾して湿を捌き、痰厥の頭痛、
咳端嘔吐に用いる。

藿香は辛温。
嘔吐を止めて、風寒の邪を捌く。
霍乱を主とする。

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◉蒼朮

キク科のホソバオケラ、
もしくはシナオケラの根茎。
性味:辛・苦・温
帰経:脾・胃
◎本多先生による解説はこちら→黄土湯/腹證奇覧

『神農本草経』では蒼朮と白朮の
区別はされていなかったようですが、
『本草綱目』で区別されるようになったようです。
共に燥湿健脾に働きがありますが
白朮は脾虚に、蒼朮は湿盛の実証に使用する。

*¹『神農本草経』:
著者不明。
後漢に成立したとされる本草書。
365種の薬物があるとされ、
薬性によって上品・中品・下品と分けた。

*²『本草綱目』:
李時珍の書。
1552年〜1578年にかけて編集されたとされる。
過去の書籍の正誤や製法、性味、主治等を記した。

◉厚朴

厚朴
厚朴

モクレン科のカラホウおよびその変種の樹皮。
性味:苦・辛・温
帰経:脾・肺・胃・大腸
◎為沢先生による解説はこちら→【古医書】傷寒論: 弁陽明病脈証并治 二百三十八章・二百三十九章
◎本多先生による解説はこちら→厚朴三物湯/腹證奇覧

朴の木の葉は
食物を包むとカビ防止の作用があり、
古代には食器としても使われていたようで、
岐阜県には葉を使用した
「朴葉味噌」という郷土料理があります。

◉南星

サトイモ科のテンナンショウ属の植物。
性味:辛・苦・温
帰経:肺・肝・脾
効能
①燥湿化痰:
・湿痰による咳嗽・胸が苦しい等に。
方剤例→導痰湯・白朮丸
・寒痰の咳嗽・痰等に。
方剤例→姜桂丸
・肺熱によるもの。
方剤例→小黄丸
②祛風解痙:
・風痰のめまい・半身不随・顔面神経麻痺などに。
方剤例→青州白丸子
・破傷風の症状に。
方剤例→玉真散・五虎追風湯
③解毒消腫:皮膚化膿症・リンパ節腫・蛇の咬傷に。

◉半夏

半夏
半夏

サトイモ科のカラスビシャクの塊茎。
性味:辛・温・有毒
帰経:脾・胃
◎本多先生による解説はこちら→半夏瀉心湯/腹證奇覧

別名ヘソクリと呼ばれるようで、
その由来は
農家の人が作業をしつつ
畑のカラスビシャクの塊茎を掘り取り、
貯めたら集荷人に売り、
ヘソクリを作ったからだとされています。

◉藿香

シソ科のパチョリの全草、葉。
性味:辛・微温
帰経:肺・脾・胃
効能
①発表解暑:なまものや冷たいものを摂取して
湿困脾胃を生じ、同時に風寒の邪を外感した
悪寒・発熱・悪心・嘔吐等に。
方剤例→藿香正気散。
②化湿止嘔
・寒湿内阻の心窩部の痞え・悪心・嘔吐等に。
方剤例→藿香半夏湯
・湿困脾胃の悪心・嘔吐・下痢等に。
方剤例→不換金正気散
・湿温初期の悪寒・発熱・体が重い・泥状便等に。
方剤例→藿朴夏苓湯
③行気止痛:脾胃気滞の脹満・腹痛に。


<参考文献>
『万病回春解説』 創元社
『万病回春.巻之1-8』 早稲田大学 古典籍総合データベース
『まんが漢方入門』 医道の日本社
『まんが中国医学歴史』 医道の日本社
『中医臨床のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

下野

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