こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております、
桂枝人参湯についてです。

桂枝人参湯

桂枝人参湯
桂枝人参湯


夫れ人参、心下痞硬をというの説、
近世、東洞子の薬微に論定して、至当の説なり。
然れども、心下痞硬も亦、諸證あるを、
一概に以て人参の主治する所と定むるも、
善く仲景の書を読む者と謂うべからず。
今、其の著しきものを言わんに大柴胡湯は、
人参を去って、却って心下痞硬の證あり。
且つ、嘔吐、下痢併せ至る。
此れ其の脈證の間に於いて、寒熱・虚実を弁ぜずんば、
則ち、理中・柴胡、何をか別かたん。
十棗湯は、甘遂・芫花・大戟の水を逐うものにして、
亦、心下痞硬の證あり。
其の異るところ、脇下に引痛し乾嘔の證ありといえども、
人参湯にも胸痺引痛の證あれば、
卒かに診せば、別かち難きに似たり。
抑々、傷寒論・金匱に載するところ、
人参を伍するもの二十六方にして、
其の心下痞硬・心下痞・心下痞堅等の證を言うもの、僅かに七方のみ。
其の余、之を言わざるもの、却って多きは何ぞや。
是し其の旨を弁ぜずんばあるべからず。
愚謂えらく、大柴胡の心下痞硬は、之を其の本文に、
所謂「心下急、鬱々微煩、及び熱結びて裡に在り、
及び之を按すに心下満痛する者は、此を実と為すなり」
の諸證に照らして、之を考えるときは、自ら其の弁を得るべし。
十棗湯の、「痞・硬・満や、乾嘔、短気、汗出て悪寒せざる者は、
この表解して裡未だ和せず」と曰うに因り、傍ら懸飲、支飲等の證に照らし、
之を「脇下に引き痛む」と曰うに考うるときは、
亦、自ら其の弁を得べし。
且つ、半夏瀉心湯・生姜瀉心湯・甘草瀉心湯の類、
心下痞硬、若しくは、心下痞の證を主とす。
則ち曰く、「心下満て、而して硬く痛む者は、
此を結胸と為すなり。但、満して痛まざる者は、此を痞と為す。
柴胡之に与うるに中らず。半夏瀉心湯に宜し」


【桂枝人参湯:組成】

桂枝(けいし)

桂枝
桂枝

クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:
風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯

②温通経脈:
風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯

③通陽化気:
脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯

④平衡降逆:
心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯

備考:麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。



炙甘草(しゃかんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用:去痰・鎮咳・抗炎症
①補中益気:
脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯

②潤肺・祛痰止咳:
風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯

③緩急止痛:
腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯

④清熱解毒:
咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯

⑤調和薬性:
性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。

備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



白朮(びゃくじゅつ)

白朮
白朮

キク科のオオバナオケラの根茎。
日本では周皮を除いた根茎が出回る。
性味:甘・苦・温
帰経:脾・胃
主な効能と応用:
①健脾益気:
脾気虚で運化が不足して食欲不振・泥状~水様便
腹満・倦怠無力感などを呈する時に用いる。
方剤例⇒四君子湯

②燥湿利水:
脾虚で運化が不足し水質が停滞したための浮腫
尿量減少あるいは泥状~水様便などに用いる。
方剤例⇒防已黄耆湯

③固表止汗:
表虚の自汗に用いる。
方剤例⇒玉屏風散

④安胎:
胎動不安(切迫流産)すなわち妊娠中の腹痛
性器出血などの症候時に用いる。

備考:補脾益気・燥湿利水の効能など、健脾の要薬となる。



人参(にんじん)

人参
人参

ウコギ科のオタネニンジンの根。
性味:甘・微温・微苦
帰経:肺・脾
主な薬効と応用
①補気固脱:
大病・久病・大出血・激しい嘔吐などで
元気が虚衰して生じるショック状態時に用いる。
方剤例⇒独参湯

②補脾気:
脾気虚による元気がない・疲れやすい・食欲不振、
四肢無力・泥状~水様便などの症候時に用いる。
方剤例⇒四君子湯

③益肺気:
肺気虚による呼吸困難・咳嗽・息切れ(動くと増悪する)
・自汗などの症候時に用いる。
方剤例⇒人参胡桃湯

④生津止渇:
熱盛の気津両傷で高熱・口渇・多汗・元気がない・
脈が大で無力などの症候時に用いる。
方剤例⇒白虎加人参湯

⑤安神益智:
気血不足による心身不安の不眠・動悸・
健忘・不安感などの症候時に用いる。
方剤例⇒帰脾湯

備考:
生化の源である脾気と一身の気を主る
肺気を充盈することにより一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。
すべての大病・久病・大出血・大吐瀉による元気虚衰の
虚極欲脱・脈微欲脱に対して最も主要な薬物。



乾姜(かんきょう)

乾薑
乾薑

ショウガ科のショウガの根茎を乾燥したもの。
性味:大辛・大熱
帰経:心・肺・脾・胃
主な薬効と応用:解熱・鎮痛・鎮咳・抗炎症
①温中散寒:
脾胃虚寒で腹が冷えて痛む・腹鳴・
不消化下痢・嘔吐などの症候時に用いる。
方剤例→理中湯

②回陽通脈:
陽気衰微・陰寒内生による亡陽虚脱で、
四肢の冷え・脈が微弱などの症状時に用いる。
方剤例→四逆湯

③温肺化痰:
肺の寒陰による咳嗽・呼吸困難・
希薄な多量な痰・背部の冷感などの症候時に用いる。
方剤例→小青竜湯

備考:辛熱燥烈のため、陰虚内熱・妊婦には禁忌とする。


【桂枝人参湯:効能】

傷寒論によると
「太陽病、外證未除、而數下之、遂協熱而利、
利下不止、心下痞鞕、表裏不解者、桂枝人参湯主之」

とある。

太陽病で表証がまだ解けていない場合は、
桂枝湯でその表を解いていけばよいが、
攻下薬を用いたため、
脾胃が虚し内寒が生じ、
その内寒と表熱が合わさって、
瀉下薬により下痢が引き起こされてしまう。
このように裏が虚して、
いまだ表邪が残っている場合は
裏虚を治療しながら、
表を固めていくようにする。

桂枝人参湯は、
「中焦を温め虚を補い、表を固める」
効能がある。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『傷寒雑病論』 東洋学術出版
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧翼 二編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004922

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是非参考文献を読んでみて下さい。


本多


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