乾薑
乾薑

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は
弁少陰病脈証并治 二百九十二章・二百九十三章・二百九十四章。
二百九十二章では少陰病で嘔吐・下痢した場合の予後と灸治療について。
二百九十三章では少陰病で熱が太陽に転入した変証について。
二百九十四章では少陰病で下厥上竭の重証になった場合について
それぞれ詳しく述べております。


二百九十二章

少陰病、吐利、手足不逆冷、
反發熱者、不死。脉不至者、灸少陰七壯。

和訓:
少陰病、吐利し、手足逆冷せず、反って発熱するものは、死せず。
脉至らざるものは、少陰に灸すること七壮。


少陰病、吐利、手足不逆冷、反發熱者、不死
少陰虚寒証で嘔吐、下痢の症状があれば、
多くは真陽は亡脱して水と土の両方が崩壊している危険な状態であり、
さらに中焦土が完全に機能を失うと病は治らない。

しかし嘔吐、下痢をした後、
手足が逆に温かくなって発熱をするのは、
胃腸が働きを失わず健全で陽気を回復させ、
陰の病が陽に現れたからである。
即ちこの嘔吐、下痢は実証ではなく、
水と土が共に崩壊している状況にあって、
正気が敢然と邪気に抵抗したことを表した症状であるから
死に至るような悪候ではないと述べている。

脉不至者、灸少陰七壯
嘔吐・下痢が生じることにより、一時的にスムーズに往来せず、
脉気・脉力が充実しなくなるが決して緊急の事態ではない。
足少陰経に灸を行い、陰陽を調えて脉気を調和すれば治るのである。

提要:
少陰病で嘔吐・下痢した場合の予後と灸治療について

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、嘔吐と下痢があるが、
手足は冷えておらず、かえって発熱していれば、これは死証ではない。
もししばらくの間 脈拍が触れなくなる場合は、
少陰経の穴位に灸を七壮すえて陽気の回復をはかるとよい。


二百九十三章

少陰病、八九日、
一身手足盡熱者、以熱在膀胱、必便血也。

和訓:
少陰病、八九日にして、一身手足尽く熱するものは、
熱膀胱に在るを以て、必ず便血するなり。


少陰病、八九日、一身手足盡熱者
少陰は水火の臟で、少陰熱証は多くが陰虚火旺の変証である。
少陰病で8、9日経過した頃は陽経が主る時期であるから、
真火はこの時期に陽経を助けを得て臟にある邪を腑に伝える。
つまり陰病が陽病に転化する。
このとき陽経の助けが強すぎれば、これも変証を生じさせる原因になる。

以熱在膀胱、必便血也
少陰と太陽の臓腑は表裏関係にある。
少陰心火の熱は経に沿って小腸から膀胱に入る。
足太陽膀胱経は一身の表を主るために、
熱が膀胱に入ると循経流注によって身体を一周するので
「身手足尽熱」と述べている。
また「血尿」は血脈が熱により傷ついて外に洩れ、
尿に混じることにより生じる。

提要:
少陰病で熱が太陽に転入した変証について

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、第八九病日になった頃、
全身及び手足がすべて発熱していれば、
熱邪は膀胱にあり、必ず便血が現れる。


二百九十四章

少陰病、但厥無汗、而強發之、
必動其血、未知從何道出、或從目出者、
是名下厥上竭、爲難治。

和訓:
少陰病、但だ厥して汗なく、而るに之を発すれば、
必ず其の血を動かし、未だ何れの道従り出ずるかを知らず、
或いは口鼻従り、或いは目従り出ずるものは、
是れ下厥上竭と名づけ、難治と為す。


少陰病、但厥無汗、而強發之、必動其血
少陰病は元陽が衰微して温煦作用を失い、
津を気化して発汗させることがないため厥冷無汗となる。
血と汗は名称は異なるが同類であるから、
少陰病で作汗不能であれば精血もまた必ず虚少となる。
この時、無理に汗法を行うと
必ず経脉は傷ついて身体の上方から出血する。

未知從何道出、或從目出者、是名下厥上竭、爲難治
少陰経は咽喉を巡り、舌本を挟んで目に関わるので
口や鼻、或いは目から出血するのである。
これは下方では陽気が衰えて厥を為し、
上方では出血して涸竭しているのである。
これを下厥上竭といい、重篤な症状で、しかも難治である。

提要:
少陰病で下厥上竭の重証になった場合について

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、ただ四肢が厥冷して汗が出ていないだけの患者を、
医者があろうことか無理やり発汗すれば、必ず陰血はかき乱されて出血がおこる。
出血のおこる部位は一定せず、
口や鼻から流出することもあり、或いは目からのこともあるが、
このような状態は下厥上竭と呼ばれ治療は困難である。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:為沢 画

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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