こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております、
補中益気湯についてです。

補中益気湯

補中益気湯
補中益気湯


図の如く、
心下、両脇下に痞塞すること、柴胡の證に以て、
一体にてうすく、其の皮膚の診は、前の桂枝加黄耆湯の證のごとく、
正気の宣暢しがたきを見るものは、益気湯を用いるべきの腹證なり。
夫れ益気湯は東垣李氏の立方にして、後人、之を貴びて、医王の称あり。
医俗、競いて此方を用いるより、遂に坊間(まち)の売薬となりて、
復其の證を問わず、漫然として翫服するに至る。
是に於いて古方を執るものは、一に之を遠ざけて用いずといえども、
李氏を信ずるの徒は、今に之を尊びて捨ず。
愚、謂えらく、彼の李・朱の二氏、後世の巨擘にして、
其の立方時論、亦巧ならざるに非ず。
然れども、仲景の室に入りて古方の奥妙を窺わず、
穿って以て、自ずから足れりとするもの少なからず。
是を以て其の言浮誇、実に過ぎるもの多し。
是れ好古の士の取らざるところなり。
而るを李氏を信ずるの徒は、尊祟・仲景に過ぎ、
却って其の浮誇を覚えず、
妄想りに以て玄奥窺則しがたきが如く思うも、
迷えりというべし抑々当今、好古の士、
古方を信ずるの一途にして、反って之を近きに失し、
李朱の徒の笑いを受けるものなきに非ず。
是亦愚に近きに似たり。
余、近ごろ諸家の口訣を問い、並びに、
立方の意を考えて之を試用するに、軽重ともに効を取ること少なからず。
因って之を古に考えるに、李氏の本づくところ、
柴胡湯にありて、柴胡、固より実邪に施すべくして、
所謂、労気の人に用いがたきを以て、
中にして脾胃を温補するに、人参白朮を以てするもの、
理中の意を以てし、外にして正気を滋張るするに黄耆を以して、
以て之が君となし、
加うるに升提・理気・解熱・和血の諸品を以てして、
相い共に胸脇・心下の鬱結を消して、以て正気を肌表に宣暢し、
方名の如く、「中を補い気を益し」て、
邪気自ら去るように工夫し、立てたるものにして、
さりとては點(小賢)く巧みなる方なりと思わる。


【補中益気湯:組成】

黄耆(おうぎ)

黄耆
黄耆

マメ科のキバナオウギ、ナイモウオウギなどの根。
性味:甘・温
帰経:脾・肺
主な薬効と応用:
①補気昇陽:
脾肺気虚の元気がない・疲れやすい・無力感・食欲不振・息切れ、
自汗・泥状便などの昇降時に用いる。
方剤例⇨参耆湯

②補気摂血:
気不摂血による血便・不正性器出血、
皮下出血などの症状時に用いる。
方剤例⇨帰脾湯

③補気行滞:
気虚血滞による肢体の痺れ・運動障害・半身不随などの症状に用いる。
方剤例⇨黄耆桂枝五物湯

④固表止汗:
表虚の自汗・盗汗時に用いる。
方剤例⇨牡蠣散

⑤托瘡生肌:
気血不足のために癰疽瘡瘍(皮膚化膿症)の化膿が遅い・排膿しない、
潰瘍を形成する・滲出液が続く・傷口が癒合しないといった症状時に用いる。
方剤例⇨透膿散

⑥利水消腫:
気虚の水湿不運による浮腫・尿量減少などに用いる
方剤例⇨防已黄耆湯
備考:性質が温昇で助火し補気固表するので、
表実邪盛・裏実積滞・気実胸満などには用いない。



炙甘草(しゃかんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用:去痰・鎮咳・抗炎症
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯

②潤肺・祛痰止咳:風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯

③緩急止痛:腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯

④清熱解毒:咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯

⑤調和薬性:性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



人参(にんじん)

人参
人参

ウコギ科のオタネニンジンの根。
性味:甘・微温・微苦
帰経:肺・脾
主な薬効と応用
①補気固脱:大病・久病・大出血・激しい嘔吐などで
元気が虚衰して生じるショック状態時に用いる。
方剤例⇒独参湯

②補脾気:脾気虚による元気がない・疲れやすい・食欲不振、
四肢無力・泥状~水様便などの症候時に用いる。
方剤例⇒四君子湯

③益肺気:
肺気虚による呼吸困難・咳嗽・
息切れ(動くと増悪する)・自汗などの症候時に用いる。
方剤例⇒人参胡桃湯

④生津止渇:
熱盛の気津両傷で高熱・口渇・
多汗・元気がない・脈が大で無力などの症候時に用いる。
方剤例⇒白虎加人参湯

⑤安神益智:
気血不足による心身不安の不眠・動悸・
健忘・不安感などの症候時に用いる。
方剤例⇒帰脾湯
備考:生化の源である脾気と一身の気を主る肺気を充盈することにより一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。すべての大病・久病・大出血・大吐瀉による元気虚衰の
虚極欲脱・脈微欲脱に対して最も主要な薬物。



当帰(とうき)

当帰
当帰

セリ科の根をいう。根頭部を帰頭、主根部を当帰身、支根を当帰尾、
帰身と帰尾を含めて全当帰という。
性味:甘・辛・苦・温
帰経:心・肝・脾
主な薬効と応用:
①補血調経:血虚による顔色につやがない・頭のふらつき、
眩暈・目がかすむ
月経不順・月経痛・心悸などの症候時に用いる。方剤例⇒四物湯

②活血行気・止痛:気滞血瘀の疼痛や腹腔内腫瘤などに用いる。
方剤例⇒桃紅四物湯

③潤腸通便:腸燥便秘時に用いる。
方剤例⇒潤腸丸
備考:補血には当帰身、活血には当帰尾、和血には全当帰を使用するのが好ましい。



陳皮(ちんぴ)

陳皮
陳皮

ミカン科のオオベニミカン、コベニミカン、その他同属植物の成熟果皮。
性味:辛・苦・温
帰経:脾・肺
主な薬効と応用:
①行気散寒止痛:
中寒気滞の腹痛・腹の冷えなどに用いる。
方剤例⇨烏沈湯

②温腎縮尿:
腎陽不足・膀胱虚冷などによる頻尿や遺尿などに用いる。
方剤例⇨縮泉丸
備考:気血不足・内熱などに用いない。



升麻(しょうま)

キンポウゲ科のサラシナショウマ、オオミツバショウマなどの根茎。
性味:甘・辛・微寒
帰経:脾・胃・肺・大腸
主な薬効と応用:
①発表解毒:
麻疹の初期や透発が不十分なときに用いる。
方剤例⇨升麻葛根湯

②清熱解毒:
胃火亢盛による歯齦びらん・口内炎・口臭などの症候時に用いる。
方剤例⇨清胃散

昇気陽気:
気虚下陥による慢性下痢・脱肛・子宮下垂などに用いる。
方剤例⇨補中益気湯

備考:
陰虚火旺・肝陽上亢・気逆不降などには用いてはならない。



柴胡(さいこ)

柴胡
柴胡

セリ科のミシマサイコ、またはその変種の根。
性味:苦・微辛・微寒
帰経:肝・胆・心包・三焦
主な薬効と応用
①透表泄熱:
外感表証の表熱に用いる
方剤例→柴葛解肌湯

②疎肝解鬱:
肝鬱気滞の憂鬱・イライラ・胸脇部の張痛、
月経不順などの症候時に用いる。
方剤例→四逆散

③昇挙陽気:
気虚下陥の慢性下痢・脱肛・子宮下垂などに用いる。
方剤例→補中益気湯

備考:昇発の性質を持つので、虚証の気逆不降や陰虚火旺、

肝陽上亢・陰虚傷津などに
用いてはならない。



白朮(びゃくじゅつ)

白朮
白朮

キク科のオオバナオケラの根茎。
日本では周皮を除いた根茎が出回る。
性味:甘・苦・温
帰経:脾・胃
主な効能と応用:
①健脾益気:
脾気虚で運化が不足して食欲不振・泥状~水様便、
腹満・倦怠無力感などを呈する時に用いる。
方剤例⇒四君子湯

②燥湿利水:
脾虚で運化が不足し水質が停滞したための浮腫
尿量減少あるいは泥状~水様便などに用いる。
方剤例⇒防已黄耆湯

③固表止汗:
表虚の自汗に用いる。
方剤例⇒玉屏風散

④安胎:
胎動不安(切迫流産)すなわち妊娠中の腹痛
性器出血などの症候時に用いる。

備考:補脾益気・燥湿利水の効能など、健脾の要薬となる。


【補中益気湯:効能】

脾気が虚し、
気血生化の源が不足してしまうために、
気機が宣発できずに下陥して、
昇挙と固摂が無力になった場合に用いる。
効能は、
主に、中焦を補う補中益気だが、
その他にも昇陽挙陥・甘温除大熱
の効能もある。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧翼 二編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004922

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本多


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