麻黄
麻黄

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百四十二章・二百四十三章。
二百四十二章では、燥尿により呼吸が荒く喘ぎ、
眩暈がして横になれない場合の証治について。
二百四十三章では、虚寒により
嘔吐する場合の証治について詳しく述べております。


二百四十二章

病人小便不利、大便乍難乍易、時有微熱、
喘冒不能臥者、有燥屎也、宜大承氣湯。二十八。

和訓:
病人小便利せず、大便乍ち難く乍ち易く、時に微熱あり、
喘冒して臥すること能わざるものは、燥屎あるなり。
大承気湯に宜し。二十八。


病人小便不利、大便乍難乍易
陽明腑実証の場合、津液が胃中に戻らず、
燥熱により下方に逼迫しているから
小便はよく出るが大便が秘結して硬くなるが、
ここでは病人の小便はよく出ず、
大便は出にくかったり 出やすかったりする。
これは陽明に燥熱があると津液を損傷し、
小便不利と同時に乾燥した便が
体内に停滞し排便困難を生じるが
津液が熱邪に追われるように、
乾燥した便のそばを下へ向かって流れることもあるので
水分の多い便が出る事もある。

時有微熱、喘冒不能臥者、有燥屎也、宜大承氣湯
燥熱が裏の深部に伏み、外に現れないので時々微熱が出る。
邪熱の勢いが激しいと、濁気とともに逆して塞がるので
呼吸が荒々しく眩暈がして横になれない。
燥尿が完全に形成され、
熱邪が激しい場合が大承気湯で治療するとよい。

提要:
燥尿により呼吸が荒く喘ぎ、眩暈がして横になれない場合の証治について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
患者は小便が出にくく、大便は急に出にくくなったり
急に出やすくなったりし、時に微熱があり、息で喘いでめまいし、
安静に睡眠できない場合は、腸内に燥屎ができているので、
大承気湯で治療するとよい。第二十八法。


二百四十三章

食穀欲嘔、屬陽明也、呉茱萸湯主之。
得湯反劇者、屬上焦也。呉茱萸湯。方二十九。

呉茱萸一升、洗 人参三兩 生薑六兩、切 大棗十二枚、擘
右四味、以水七升、煮取二升、去滓、溫服七合、日三服。

和訓:
穀を食して嘔せんと欲するは、陽明に属するなり。呉茱萸湯之を主る。
湯を得て反って劇しきものは、上焦に属するなり。呉茱萸湯。方二十九。

呉茱萸一升、洗う 人参三両 生薑六両、切る 大棗十二枚、擘く
右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。


食穀欲嘔、屬陽明也、呉茱萸湯主之
陽明病で胃気虚寒があると、水穀を消化吸収し
下へ運化することができなくなり、
その結果、胃気は上逆してしまう。
「屬陽明」というのは、胃に虚寒があるという意味なので
治療において温胃散寒、
降逆止嘔の作用をもつ呉茱茰湯を用いる。

得湯反劇者、屬上焦也
呉茱茰湯を服用すると嘔吐がさらにひどくなった場合は
中焦に寒があると同時に、膈上つまり上焦に熱が存在している
ことを示唆しているため、その上焦にある熱を助長させ、
嘔吐はますます激しくなる。
これは誤治ではなく、上焦に熱がある場合は
呉茱茰湯ですべて治すことができないということである。

呉茱茰湯

呉茱萸
呉茱萸

呉茱萸
基原:
ミカン科のニセゴシュユ、
ホンゴシュユの未成熟な果実。

呉茱萸は辛散苦降・大熱燥烈で、
疎肝下気に長じ、温中して肝胃を和し、
散寒燥湿して脾腎の陽を助ける。
厥陰の寒気上逆を下降し止痛するため厥陰頭痛に適し、
温中降濁して肝胃を調和し止嘔・制酸に働くので
胸腹脹満・嘔吐呑酸に有効であり、
脾腎を助陽し燥湿して逆気を下ろすために
寒湿瀉痢・吐瀉転筋・寒疝脚気・少腹冷痛などにも用いる。

人参
人参

人参
基原:
ウコギ科のオタネニンジンの根。
加工調整法の違いにより種々の異なった生薬名を有する。

人参は甘・微苦・微温で中和の性を稟け、
脾肺の気を補い、生化の源である
脾気と一身の気を主る肺気の充盈することにより、
一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。
元気が充盈すると、益血生津し安神し智恵を増すので、
生津止渇・安神益智にも働く。
それゆえ、虚労内傷に対する第一の要薬であり、
気血津液の不足すべてに使用でき、
脾気虚の倦怠無力・食少吐瀉、
肺気不足の気短喘促・脈虚自汗、
心神不安の失眠多夢・驚悸健忘、
津液虧耗の口乾消渇などに有効である。
また、すべての大病・久病・大吐瀉による
元気虚衰の虚極欲脱・脈微欲絶に対し、
もっとも主要な薬物である。

生薑
生薑

生薑
基原:
ショウガ科のショウガの新鮮な根茎。
日本では、乾燥していない生のものを鮮姜、
乾燥したものを生姜を乾生姜と
いうこともあるので注意が必要である。

生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。

大棗
大棗

大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。またはその品種の果実。

甘温で柔であり、
補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
また、生薑との配合が多く、生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、
大棗が営血を益して発汗による
傷労を防止し、
営衛を調和することができる。

提要:
虚寒により嘔吐する場合の証治について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
食事をした後で嘔吐したがる場合、これは陽明胃の病であり、
もし呉茱萸湯で治療して嘔吐が反って悪化すれば、
病変は上焦にあり、中衝に塞がっているのではない。処方を記載。第二十九法。
呉茱萸一升、洗う   人参三両  生薑六両、切る  大棗十二個、裂く
右の四味は、七升の水で、二升になるまで煮て、滓を除き、七合を温服し、日に三回服用する。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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