こんにちは、為沢です。

今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(上)二十三章。
太陽病にかかり、八〜九日経った後の三つの転帰について述べております。


弁太陽病脈証并治(上)

二十三章

太陽病、得之八九日、
如瘧状、發熱惡寒、熱多寒少、
其人不嘔、清便欲自可、一日二三度發。
脉微緩者、爲欲愈也。
脉微而惡寒者、此陰陽倶虚、
不可便發汗、更下、更吐也。
面色反有熱色者、未欲解也。
以其不能得小汗出、身必痒、
宜桂枝麻黄各半湯。方十。

桂枝一兩十六銖、去皮芍藥 生薑 甘草 麻黄各一両、去節
大棗
四枚、擘 杏仁二十四枚、湯浸、去皮尖及兩仁者
右七味、以水五升、先煮麻黄一二沸、去上沫、
内諸藥、煮取一升八合、去滓、溫服六合。
本云、桂枝湯三合、麻黄湯三合、併爲六合、頓服。将息如上法。

臣億等謹按、桂枝湯方、桂枝、芍藥、生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。
麻黄湯方、麻黄三兩、桂枝二兩、甘草一両、杏仁七十箇。
今以算法約之、二湯各取三分之一、即得桂枝一兩十六銖、芍藥、生薑、甘草各一兩、大棗四枚、
杏仁二十三箇零三分枚之一、収之得二十四箇、合方。詳此方乃三分之一、非各半也。宣云合半湯。

和訓:
太陽病、之を得て八九日、瘧疾の如く、
發熱、惡寒し、熱多く、寒少なく、
其の人嘔せず、清便自ずから可ならんと欲し、
一日に二三度発し、脉微緩なる者は、愈えんと欲すと為すなり。
脉微にして惡寒するものは、此れ陰陽倶に虚し、
更に発汗し、更に下し、更に吐すべからざるなり。
面色に反って熱色あるものは、未だ解せんと欲せざるなり。
其の小汗出ずるを得ること能わざるを以て、
身必ず痒し。桂枝麻黄各半湯に宜し。方十。
桂枝一兩十六銖、皮を去る 芍藥 生薑切る
甘草炙る 麻黄十各一兩、節を去る 大棗
枚、擘く
杏仁二十四枚、湯に浸す、皮尖及び兩仁のものを去る
右七味、水五升を以て、先ず麻黄を煮ること一二沸、上沫を去り、
諸藥を内れ、煮て
一升八合を取り、滓を去り、六合を溫服す。
本に云う、桂枝湯三合、麻黄湯三合、併わせて六合と爲し、頓服すと。将息は上法の如し。
四味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。
本に云う、桂枝湯今芍薬を去ると。将息は前法の如し。

臣億ら謹んで按ずるに、桂枝湯方、桂枝、
芍藥、生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。
麻黄湯方、麻黄三兩、桂枝二兩、甘草一両、杏仁七十箇。
今算法を以て之を約するに、二湯各三分の一を取り、
即ち得るは桂枝一兩十六銖、芍藥、生薑、甘草各一兩、大棗四枚、
杏仁二十三箇零三分枚の一、之を収めて二十四箇を得、方を合わす。
此の方を詳にすれば乃ち三分の一、各半にあらざるなり。合半湯と云うに宜し。


太陽病、得之八九日
太陽病を発病して八〜九日を経過している様子。

如瘧状、發熱惡寒、熱多寒少
「瘧」とはマラリヤ様の疾患で、
悪寒戦慄・高熱・汗が出る・
定期的に発作を起こすなどの症状を特徴としている。
「状の如し」とあるので、あたかも瘧疾のようではあるが、
瘧疾ほど病状は激しくないことを表している。
「熱多寒少」は邪正闘争において
正気が優勢なため、熱を多く発しているからである。

其人不嘔、清便欲自可
「不嘔」とは、嘔気がないこと=少陽病位に病が無いことを示す。
「清」はトイレのこと。「可」は普通であることから、
大便が正常であること=陽明病位に病が無いことを示す。

一日二三度發
瘧に似た発作が一日に二〜三回発する。


正気と邪気との戦いも日数が経過するに従い、その結果がはっきりしてくる。
仲景はそれを次の三つの場合に考え細かく分析している。

脉微緩者、爲欲愈也
「微」は邪が衰えたこと。
「緩」は正気が回復してきたことを示すため
病が癒えようとしていることである。

脉微而惡寒者、此陰陽倶虚、不可便發汗、更下、更吐也
脉が微で悪寒のある者(この悪寒は陰証によるもの)は、
病が進行して正気が邪気に勝てない様子を表す。
これは表裏ともに正気が虚しているためである。
その為、発汗法、攻下法、吐法の三法は行ってはいけない。

面色反有熱色者、未欲解也。
以其不能得小汗出、身必痒、宜桂枝麻黄各半湯

「面色」とは顔色のこと。「熱色」とは赤くて発熱している様子。
「反」とあるが、これは邪気が未だ肌表にあるので
陽気が鬱滞し汗が出ようにも出ず、熱が籠るため顔色が紅くなるためである。
また汗が出ないので肌は痒くなる。
「主」ではなく「宜」と表現されているが、
他の証も考えられるため、
この場合は宣桂枝麻黄各半湯が宜しいと言っている。


方義
桂枝湯(桂枝・芍藥・甘草・生薑・大棗)
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(上) 十二章・十三章

 

麻黄
麻黄

麻黄
辛温・微苦で肺・膀胱に入り、
辛散・苦降・温通し、肺気を開宣し腠理を開き
毛窮を透して風寒を発散するので、
風寒外束による表実無汗や肺気壅渇の喘咳の常用薬である。
外邪による肺気不宣で呼吸困難・咳嗽を呈するときに、
平喘止咳を強める杏仁などと用いる。


杏仁
杏仁

杏仁
杏仁は苦辛・温で、肺経気分に入り、
苦降・辛散により下気・止咳平喘するとともに
肺経の風寒痰湿を疏散するので、
外邪の侵襲や痰濁内阻による
肺気阻塞で咳喘・痰多を呈するときに適する。
熱には清熱薬を、寒には温化薬を、
表邪には解表薬を、燥邪には潤燥薬を、
それぞれ加えることにより邪実に対処することができる。
また、質潤で油質を含み、
滑腸通便の効能をもつので、
腸燥便秘にも有効である。

●方の名は「桂枝麻黄各半湯」になっているが、
実際には桂枝湯と麻黄湯を各三分の一量を合わせたものである。
風寒表邪が残存しているが軽微になっている状態で、表閉で陽熱が欝して顔が紅く、
風邪が外泄しかけて身体の掻痒が生じているので、外泄の機に乗じて発汗解表する。
桂枝湯では解し得ず、麻黄湯では峻泄にすぎるので、両方の三分の一量を合わせて
「小しく汗を発する」軽い発汗剤である。

提要:
太陽病にかかって八〜九日経た後の三種類の伝変について。


太陽病に罹って、すでに八〜九日が経ち、瘧状の発作と同じように、
発熱と悪寒があり、発熱が多くて悪寒が少ない。
患者は嘔吐せず、大便も正常だが、
一日に二〜三回このような発作がおこる。
この時の脈象が緩和であれば、病がやがて癒える。
もし脈象が微弱で且つ悪寒が激しいなら、
表裏の気がともに虚している徴候であり、
これをさらに発汗、攻下、催吐などの方法で治療することはできない。
もし顔面が反って紅潮していれば、
肌表に在る邪はまだ解除されていない。
これは患者を軽く発汗させられなかったためで、
邪は肌表に鬱滞し、その結果身体は痒くなる。
これは桂枝麻黄各半湯で治療してよい。
処方を記載。第十法。
桂枝
一両十六銖、皮を除く芍薬 生姜切る甘草炙る麻黄各一両、節を除く
大棗四個、裂く杏仁二十四個、湯に浸し、皮尖と両仁のものを除く
右の七味は、五升の水で、まず麻黄を少し煮て、滓を取り、六合を温服する。
別本には、桂枝湯を三合、麻黄湯を三合、併せて六合にして、頓服するとある。療養法は前法に同じ。

臣億らが謹んで考察するには、桂枝湯方は、桂枝、芍藥、生薑が各三両で、甘草は二両、大棗は十二個。
麻黄湯方は、麻黄三両、桂枝二両、甘草一両、杏仁七十個である。
今計算しておおよその数字を求めて求めると、二湯のそれぞれを三分の一ずつ取って合わせると、
桂枝一両十六銖、芍薬、生薑、甘草各一両、大棗四個、杏仁二十三個と三分の一、これを二十四個とみなす。
仔細に言えば、それぞれを三分の一ずつ取ったものであるから、各半ではない。合半湯というのが適当だろう。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社為沢

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