地黄
地黄

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁少陰病脈証并治 三百十七章。
この章では、少陰病の陰盛格陽の証治について詳しく述べております。


三百十七章

少陰病、下利清穀、裏寒外熱、手足厥逆、
脉微欲絶、身反不惡寒、其人面色赤、或腹痛、
或乾嘔、或咽痛、或利止脉不出者、通脉四逆湯主之。方十六。

甘草二兩、炙    附子大者一枚、生用、去皮、破八片   乾薑三兩、強人可四兩
右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、
分溫再服、其脉即出者愈。面色赤者、加葱九茎。
腹中痛者、去葱、加芍薬二兩。嘔者、加桔梗二兩。
咽痛者、去芍薬、加桔梗一兩。利止脉不出者、去桔梗、加人参二兩。
病皆與方相応者、乃服之。

和訓:
少陰病、清穀を下利し、裏寒外熱、手足厥逆し、
脉微にして絶えんを欲し、身反って悪寒せず、其の人面色赤く、
或いは腹痛、或いは乾嘔、或いは咽痛し、
或いは利止み脉出でざるものは、通脉四逆湯之を主る。方十六。

甘草二兩、炙る  附子大なるもの一枚、生で用う、皮を去る、八片に破る  乾薑三兩、強人は四兩なるべし  
右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、
分かち温め再服し、其の脉即ち出ずるものは愈ゆ。
面色赤きものは、葱九茎を加う。
腹中痛むものは、葱を去り、芍薬二両を加う。
嘔するものは、生薑二両を加う。
咽痛するものは、芍薬を去り、桔梗一両を加う。
利止み脉出でざるものは、桔梗を去り、人参二両を加う。
病皆方と相応ずるものは、乃ち之を服せ。


少陰病、下利清穀、裏寒外熱、
手足厥逆、脉微欲絶、身反不惡寒、其人面色赤

少陰病でみる未消化便は
陽虚裏寒がすでに重篤になっているからである。
病で虚が極まれば臓気が衰微し、往々にして真陽が表に脱し、
裏では寒が全体に行き渡ってしまう。
これが外症として「身反不悪寒、其人面色赤」という
一見熱証として出現するが、これは仮証である。

また裏では、「手足厥逆、脉微欲絶」という
本来の寒証も同時に出現する。

或腹痛、或乾嘔、或咽痛、
或利止脉不出者、通脉四逆湯主之

生時において陽が離脱してしまったのであれば、
死に至るのは時間の問題であるので、
脈気は触れることができず、まさに絶えようとしているのである。
この場合、通脉四逆湯を与え、
生陽させて脈気の回復を図らなければならない。
腹痛、乾嘔、咽痛等の症状に対して、
適宜薬湯を与え、急症を救えば良い。

通脉四逆湯

甘草
甘草

甘草
基原:マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。

甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・
止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し
薬味を矯正することができる。

乾薑
乾薑

乾薑
基原:ショウガ科のショウガの根茎を乾燥したもの。
古くは皮を去り水でさらした後に晒乾した。

乾姜は生姜を乾燥させてもので
辛散の性質が弱まって
辛熱燥烈の性質が増強され、
無毒であり、温中散寒の主薬であるとともに、
回陽通脈・燥湿消痰の効能をもつ。
陰寒内盛・陽衰欲脱の肢冷脈微、
脾胃虚寒の食少不運・脘腹冷痛・吐瀉冷痢、
肺寒痰飲の喘咳、風寒湿痺の肢節冷痛などに適し、
乾姜は主に脾胃に入り温中寒散する。
通脉四逆湯では、乾薑を9〜12gに増量する。

附子
附子

附子
基原:
キンポウゲ科のカラトリカブト、その他の同属植物の子根。
加工・炮製して利用することが多い。

附子は辛熱壮烈であり、
「走きて守らず」で十二経を通じ、
下焦の元陽(命火)を峻補して裏の寒湿を除き、
皮毛に外達して表の風寒を散じる。
それゆえに亡陽欲脱の身冷肢冷・大汗淋漓・
吐利不止・脈微欲脱てんなどには回陽救逆し、
腎陽不足の陽痿滑精・腰膝冷弱には補火壮陽し、
脾腎陽虚・陰寒内盛の心腹冷痛・吐瀉転筋には温裏散寒し、
陽虚不化水湿の身面浮腫・腰以下種甚には
助陽行水して冷湿を除き、
風寒湿痺の疼痛麻木には祛風散寒止痛し、
陽気不足の外感風寒で
悪寒発熱・脈沈を呈するときは助陽発表する。
このほか、補益薬と用いると
一切の内傷不足・陽気衰弱に使用できる。
通脉四逆湯では、附子を9gに増量する。

提要:
少陰病の陰盛格陽の証治について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、不消化便を下痢して、
裏には寒邪があり また外には発熱がある。
手足は厥冷し、脉は消えそうなほど微細であるが、
身体にはかえって寒けがなく、患者の顔は紅潮している。
或いは腹痛があり、或いは乾嘔(からえずき)し、或いは咽喉部が痛んだり、
或いは下痢は止まったが脈拍の触知されないものは
通脉四逆湯で治療する。処方を記載。第十六法。
甘草二両、炙る 附子大きなもの一個、生で用いる、皮を除く、八片に割る
乾姜三両、強壮な人は四両を用いる
右の三味を、三升の水で、一升二合になるまで煮て、滓を除き、
二回に分けて温服し、服薬してすぐ脉が触知されるようになれば治癒する。
顔面の紅潮があれば、葱白九茎を加える。
腹中が痛む場合は、葱白を抜き、芍薬二両を加える。
嘔吐があれば、生姜二両を加える。
咽喉部が痛めば、芍薬を抜き、桔梗一両を加える。
下痢は止まったが脈拍が触知されない場合は、
桔梗を抜き、人参二両を加える。
病情と処方が相応していれば、服用するとよい。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:為沢 画

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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