こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております、
厚朴七物湯についてです。

厚朴七物湯

厚朴七物湯
厚朴七物湯


図の如く、
腹一面にはり満ちて大便硬く、
発熱、脈浮なるものを厚朴七物湯の腹證とす。
但、腹満すといえども、鼓脹の腹状と異なる。
鼓脹は、必ず青筋あり。別に詳かにす。
此の方、厚朴大黄湯と桂枝去芍薬湯と合方するものとす。
故に腠裡を兼ねるの治あり。
證に曰く、
「腹痛を病み、発熱十日、脈浮にして数飲食し、故の如きは、厚朴七物湯之を主る」
病、発熱してより十日に至り、
腹満すれば、不食して承気の證にも至るべきもの。
脈も、表證の浮にして、数飲食も巳前の如くにて、不食にも至らざれば、表證もあり。
又、腹満すれば、肌表ばかりのことにあらざるゆえ、桂枝にて肌表を和し、
厚朴大黄湯にて腹満を解するを以て、二方を合するの意なり。
此の方、夏月の下痢、腹はり・痛み、
裏急後重して発熱するものに用いて効あり。
或は疝気にて、腹痛甚だしく、腹満するものを治す。
此れは、方中、生姜の分量多きを以って、寒を散らすの意あり。
若しくは、嘔するものは半夏を加う。
或云う、「丸として、食毒あるものに用いて可なり」と。


【厚朴七物湯:組成】

厚朴(こうぼく)

厚朴
厚朴

モクレン科のカラホウおよびその変種の樹皮。
性味:苦・辛・温
帰経:脾 ・胃・肺・大腸
主な薬効と応用:
①行気化湿:湿困脾胃・食積気滞の腹満・腹痛・下痢などに用いる。
方剤例→平胃散
②下気除満:熱結や裏実気滞の腹満・腹痛・便秘などに用いる。
方剤例→厚朴麻黄湯
備考:内熱津虚・脾胃気虚には用いてはならない。



甘草(かんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



大黄(だいおう)

大黄
大黄

タデ科のダイオウ属植物の根茎や根。
性味:苦・寒
帰経:脾・胃・大腸・肝・心包
主な薬効と応用:緩下・駆瘀血
①瀉熱通腸:胃腸の実熱による、
便秘・腹痛・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱瀉火:火熱上亢による、
目の充血・咽喉の腫痛・鼻出血など上部の火熱の症候に用いる。
方剤例⇒三黄瀉心湯
③行瘀破積:血瘀による無月経や腹痛時に用いる。
方剤例⇒復元活血湯
④清火湿熱:湿熱の黄疸時に用いる。
方剤例⇒茵蔯蒿湯
備考:生用すると瀉下の働きが強くなり、
酒を吹きかけ火で焙ると上部の火熱を清し活血化瘀の働きが強くなり、
酒とともに蒸すと瀉下の力が緩やかになり、
炒炭すると化瘀止血に働く。



大棗(たいそう)

大棗
大棗

クロウメモドキ科の棗(なつめ)の果実。
性味:温・甘
帰経:脾
主な薬効と応用:鎮静・抗アレルギー
①補脾和胃:脾胃虚弱の倦怠無力・食欲不振・泥状便などの症状に用いる。
方剤例⇒六君子湯
②養営安神:営血不足による不眠・不安感などに用いる。
方剤例⇒甘麦大棗湯
③緩和薬性:薬力が強力な薬物に配合し、性質を緩和し脾胃の損傷を防止する。
方剤例⇒十棗湯
備考:湿盛の脘腹脹満・食積・虫積・齲歯・痰熱咳嗽などには禁忌となる。



枳実(きじつ)

枳実
枳実

ミカン科のダイダイ、イチャンレモン、カラタチなどの幼果。
性味:苦・微寒
帰経:脾・胃・大腸
主な薬効と応用:
①破気消積:腸胃湿熱積滞による腹痛・便秘あるいは下痢・裏急後重などの症候時に用いる。
方剤例→枳実導滞丸
②化痰消痞:胸脇の痰飲で胸が痞えて苦しい、
胸が痞えて苦しい・呼吸困難などを呈する時に用いる。
方剤例→導痰湯
備考:破気に働き正気を消耗するので、体壮邪実に用いる。



桂枝(けいし)

桂枝
桂枝

クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯
②温通経脈:風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯
③通陽化気:脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯
④平衡降逆:心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯
備考:麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。



生薑(しょうきょう)

生薑
生薑

ショウガ科のショウガの根茎。
性味:温・辛
帰経:肺・脾・胃
主な薬効と応用:健胃・発汗・鎮咳
①散寒解表:風寒表証に辛温解表薬の補助として発汗を増強する。
方剤例⇒桂枝湯
②温胃止嘔:胃寒による嘔吐に、単味であるいは半夏などと使用する。
方剤例⇒小半夏湯
③化痰行水:風寒による咳嗽・白色で希薄な痰などの症候時に用いる。
方剤例⇒杏蘇散
備考:傷陰助火するので、陰虚火旺の咳嗽や瘡癰熱毒には禁忌である。


【厚朴七物湯:効能】

『金匱要略』には、
病腹滿、発熱十日、脉浮而數、飲食如故、厚朴七物湯主之。
腹満という裏実があり、
脈浮という表証が残っているものに適応できる。
との記載がある。
表寒裏実に対して、
解肌発表・行気通便の効能がある。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『傷寒雑病論』 東洋学術出版
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧 正編2巻・後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004914

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多

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