『宋本傷寒論』東洋学術出版社 / ペン
『宋本傷寒論』東洋学術出版社 / ペン

こんにちは、為沢です。
張仲景の古医書、傷寒論の解説が百章に到達した
ことを記念(?)に、いつも参考文献で
お世話になっている東洋学術出版社さんの
『宋本傷寒論』を描いてみました。
シンプルに解説されていて大変良い書籍です。
学生時代から持っている書籍なので
御覧の通り表紙がボロボロです。
あと、やたら分厚くて重いため
持ち歩くと すんごい肩凝って大変でした。
しかし学生時代から苦楽を共にしたこともあり
大変愛着もあります。
これからも大事にしたい書籍です。


では、今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(中)九十九章と百章。
九十九章では太陽病に少陽が現れる場合の治療法について。
百章では少陽病に加えて中焦が虚して寒がある場合の脉証と治法について
詳しく述べております。


弁太陽病脈証并治(中)九十九章

傷寒四五日、身熱惡風、頸項強、脇下満、手足溫而渇者、
小柴胡湯主之。
用前方。

和訓:
傷寒四五日、身熱悪風し、頸項強ばり、脇下満し、手足温かくして渇するものは、
小柴胡湯之を主る。五十。
前方を用う。


傷寒四五日、身熱惡風、
頸項強、脇下満、手足温而渇者、小柴胡湯主之

傷寒にかかり4〜5日位経った頃に、
身熱、悪風、頸項の強ばりという
各症状は太陽病が少陽に影響し始めたことによって起こり、
脇下満は少陽に邪が入ったために生じる。
手足が火照り、口が渇くというのは、
さらに少陽半裏の症状が加わり、
少陽経中の熱が火に変化する兆しがあることを示している。
従って小柴胡湯で少陽を治療していけば、治っていく。

小柴胡湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(中)三十六章・三十七章

提要:
太陽病に少陽が現れる場合の治療法について。

訳:
傷寒に罹って四五日が経ち、
發熱して悪風があり、頸項部がこわばり、
脇下が脹満し、手足が温かくて
口渇がある場合は、小柴胡湯で治療すればよい。
第五十法。前方の処方を用いる。


弁太陽病脈証并治(中)百章

傷寒、陽脉濇、陰脉弦、法当腹中急痛、
先与小建中湯、不差者、小柴胡湯主之。
五十一。
小建中湯方
桂枝三兩、去皮甘草二兩、炙 大棗十二枚 芍藥六兩 生薑三兩、切 膠飴一升
右六味、以水七升、煮取三升、去滓、内飴、更上微火消解、
溫服一升、日三服。嘔家不可用建中湯、以甜故也。

和訓:
傷寒、陽脉濇に、陰脉弦なれば、法当に腹中急痛すべし。
先ず小建中湯を与え、差えざるものは、
小柴胡湯之を主る。五十一。前方を用う。
小建中湯方
桂枝三両、皮を去る 甘草二両、炙る 大棗十二個、裂く
芍薬六兩 生薑三兩、切る 膠飴一升
右六味、水七升を以て、煮て三升を取り、
滓を去り、飴を内れ、更に微火に上せて消解し、
一升を温服し、日に三服す。
嘔家は建中湯を用うべからず。甜きを以ての故なり。


傷寒、陽脉濇、陰脉弦、法当腹中急痛
「陽脉濇、陰脉弦」とは浮取では渋を示し、
沈取すれば弦脈を示していることで
体表に気血が十分でなく、病が内伝して少陽に入ったことを示している。
少陽病に中焦の虚寒証を兼ねているので、
脾胃の陽気がのびないため、腹部に差し込むような痛みが出る。
先与小建中湯、不差者、小柴胡湯主之
小建中湯を与えて中焦を温めて寒を除き、
虚を補って急症を和らげていくようにする。
中焦の気が回復して食穀を消化する力が回復するのを待って、
次に小柴胡湯を与えれば少陽枢の働きを元に戻すことができるので
邪は外に追い出され、治っていく。

小建中湯
方義

桂枝
桂枝

桂枝
基原:クスノキ科のケイの若枝または樹皮。
桂枝は辛甘・温で、主として肺・心・膀胱経に入り、
兼ねて脾・肝・腎の諸経に入り、
辛散温通して気血を振奮し営衛を透達し、
外は表を行って肌腠の風寒を緩散し、
四肢に横走して経脈の寒滞を温通し、
散寒止痛・活血通経に働くので、
風寒表証、風湿痺痛・中焦虚寒の腹痛・
血寒経閉などに対する常用薬である。
発汗力は緩和であるから、
風寒表証では、有汗・無汗問わず応用でき、
とくに体虚感冒・上肢肩臂疼痛・
体虚新感の風寒痺痛などにもっとも適している。
このほか、水湿は陰邪で陽気を得て
はじめて化し、通陽化気の桂枝は
化湿利水を強めるので、
利水化湿薬に配合して痰飲・畜水などに用いる。

甘草
甘草

甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると寒性を緩めるなど
薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
ここでは甘緩和中と諸薬の調和に働く。

大棗
大棗

大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。またはその品種の果実。

甘温で柔であり、
補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や
営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、
峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
ここでは、脾胃を補うとともに
芍薬と協同して筋肉の緊張を緩和していく。
また、生薑との配合が多く、
生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、
大棗が営血を益して発汗による
傷労を防止し、
営衛を調和することができる。

芍薬
芍薬

芍藥
基原:
ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し
そのままあるいは湯通しして乾燥した根。
芍薬には<神農本草経>では赤白の区別がされておらず
宋の<図経本草>ではじめて
金芍薬(白芍)と木芍薬(赤芍)が分けられた。
白芍は補益に働き赤芍は通瀉に働く。
桂枝湯では白芍を用いる。
白芍は苦酸・微寒で、酸で収斂し苦涼で泄熱し、
補血斂陰・柔肝止痛・平肝の効能を持ち
諸痛に対する良薬である。
白芍は血虚の面色無華・頭暈目眩・
月経不調・痛経などには補血調経し、
肝鬱不舒による肝失柔和の胸脇疼痛・
四肢拘孿および肝脾不和による
腹中孿急作痛・瀉痢腹痛には柔肝止痛し、
肝陰不足・肝陽偏亢による頭暈目眩・肢体麻木には斂陰平肝し、
営陰不固の虚汗不止には斂陰止汗する。
利小便・通血痺にも働く。

生薑
生薑

生薑
基原:
ショウガ科のショウガの新鮮な根茎。
日本では、乾燥していない生のものを鮮姜、
乾燥したものを生姜を乾生姜と
いうこともあるので注意が必要である。
生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。

膠飴
基原:
糯米粉・粳米粉・小麦粉などの
麦芽を加えて加工精製した飴糖(アメ)
膠飴は甘温であり、補虚建中・
緩急止痛・潤肺止咳の効能をもつので
労倦傷脾の中気不足・虚寒腹痛
および肺虚燥咳に使用する。
このほか、緩和薬性の効能もあり、
草烏頭・附子の解毒に働く。

小柴胡湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(中)三十六章・三十七章

提要:
少陽病に加えて中焦が虚して寒がある場合の脉証と治法について。

訳:
傷寒の病に罹り、
脉象は浮取すれば渋で、沈取すれば弦であるなら、
道理からすれば腹中が拘急して痛むはずである。
その場合はまず小建中湯を服用させるとよい。
もし服薬しても痛みがとれなければ、
小柴胡湯で治療すればよい。第五十一法。前法の処方を用いる。
小建中湯方
桂枝三両、皮を除く 甘草二両、炙る 大棗十二個、裂く
芍薬六兩 生薑三兩、切る 膠飴一升
右の六味を、七升の水で、三升になるまで煮て、
滓を除き、膠飴を入れ、さらに微火にかけて溶かし、一升を温服する。
日に三回服用する。嘔吐する人には建中湯を用いてはならない、甘いからである。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

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