龍勢
龍勢 出典:TOKYO Webより

こんにちは、為沢です。
先日、埼玉県秩父市・椋神社で伝統のある
「龍勢(りゅうせい)まつり」が行われました。
龍勢まつりとは毎年三十数本の龍勢(火薬を仕掛けた龍)を
轟音とともに天高く打ち上げるものであります。
龍勢祭りの歴史は古く、江戸時代初期のころから秋の例大祭で、
工学や火薬の専門家が作製するのではなく
近隣の農民たちが手作りのロケット式花火を奉納していたと伝えられます。
その為、現在では通称「農民ロケット」と呼ばれているそうです(笑)
もしかしたら世界最古のロケットかもしれない龍勢。
日本の歴史を一つ知りました。

では、今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(中)三十六章と三十七章。
三十六章では喘ぎ胸満する場合の証治について。
三十七章では表証が長引いた場合の弁証と治法について詳しく述べております。


弁太陽病脈証并治(中)三十六章

太陽与陽明合病、喘而胸満者、不可下、宜麻黄湯。六。

和訓:
太陽と陽明との合病、喘して胸満するものは、下すべからず、麻黄湯に宜し。六。


太陽与陽明合病、喘而胸満者、不可下、宜麻黄湯。
太陽病と陽明病、どちらの場合も「喘」は起こるが、
「而」という文字は喘により胸満が連続して起こることを意味する。
陽明病の”腹満して喘”というのは胃腸の邪実により腑気が鬱滞して通じず
濁気が上逆したために起きるものなので、
先に「満」となり後に「喘」となる。つまりこの条文の場合では、
太陽病の邪が実となり表衛が欝閉するとともに、
肺の宣散粛降作用が失調し、先に「喘」が生じ後に「胸満」に至る。
手の太陰肺経と手の陽明大腸経は
表裏関係になるので、大腸の働きも失調し便秘を生じる。
この便秘は陽明腑証の便秘とは異なるものであるから、攻下法は禁忌である。
邪は太陽経の方に盛んにあるため、
麻黄湯で解表平喘をすれば
宣発粛降作用が回復し、便秘も治る。方義
麻黄湯(麻黄・桂枝・甘草・杏仁)
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(中)三十五章提要:
喘ぎ胸満する場合の証治について


太陽経と陽明経とが同時に病んで、
呼吸が喘いで胸がつかえて苦しい場合、
この時は大便が出ていなくても攻下法を用いてはならず、
麻黄湯で発汗させるのがよい。


三十七章

太陽病、十日以去、脉浮細而嗜臥者、外巳解也。
設胸満脇痛者、与小柴胡湯。脉但浮者、与麻黄湯。七。
柴胡
半斤 黄芩 人参 甘草 生薑各三兩、切 大棗十二枚、擘
半夏半升、洗
右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、溫覆一升、日三服。

 

和訓:
太陽病、十日以去、脉浮細にして嗜臥するものは、外巳に解するなり。
設し胸満脇痛するものは、小柴胡湯を与う。
脉但だ浮なるものは、麻黄湯を与う。七。
柴胡
半斤 黄芩 人参 甘草炙る 生薑各三兩、切る 大棗十二枚、擘く 半夏半升、洗う
右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取り、一升を温服し、日に三服す。


太陽病、十日以去
太陽病を罹って十日ほど経過。
太陽病は他に伝経しなければ、
おおかた七日ほどで自然に治癒する
(こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(上)七章・八章
十日以上経過する場合は、以下の三通りの予後に分かれる。

脉浮細而嗜臥者
脉浮細は、中風の浮緩や傷寒の浮緊の状態ではなく、
表位の邪が衰え、病人の状態も回復の兆しにありおだやかな状態を意味する。
嗜臥とは、眠りを欲する状態。
病邪が抜けて、疲れた状態が残り眠りたい状態になる。
この状態は治癒しているので安静に寝ていれば良い。

外巳解也
頭痛、発熱、悪寒、身体疼痛などの外証が既に解したことを意味する。

設胸満脇痛者、与小柴胡湯
設とは「もし」「仮に」の意。
胸満脇痛とは、胸満が心下部の膨満や胸部の充満感、煩悶などをさし
脇痛が、脇肋の一側あるいは両側が疼痛すること。
これは病が久しくなり少陽に内伝していることを示すため、
小柴胡湯を用いて治療する。

 

脉但浮者、与麻黄湯
十日以上経過しても、全く経過が緩慢で
脉が細がなくただ浮いている場合は、裏証はなく依然として
表証が残った状態であるので麻黄湯で解表を行い治療する。

 


小柴胡湯
方義

柴胡
柴胡

柴胡
基原:セリ科のミシマサイコ、またはその種の根。
日本や韓国で栽培利用されているのは本種である。
柴胡は苦微辛・微寒で芳香を有し、軽清上昇して宣透疏達し、
少陽半表半裏の邪を疏散して透表泄熱し、清陽の気を昇挙し、
かつ肝気を疏泄して欝結を解除する。
それゆえ、邪在少陽の往来寒熱に対する主薬であり、
肝気欝結の胸脇脹痛・婦女月経不調や
清陽下陥の久瀉脱肛などにも常用する。

黄芩
黄芩

黄芩
基原:
シソ科のコガネバナの周皮を除いた根、内部が充実し、
細かい円錐形をしたものを条芩、枝芩、尖芩などと称し、
老根で内部が黒く空洞になったものを
枯芩、さらに片状に割れたものを片芩と称する。
黄芩は苦寒で、苦で燥湿し寒で清熱し、
肺・大腸・小腸・脾・胆経の湿熱を清利し
とくに肺・大腸の火の清泄に長じ肌表を行り、安胎にも働く。
それゆえ、熱病の煩熱不退・肺熱咳嗽・湿熱の痞満・瀉痢腹痛・
黄疸・懐胎蘊熱の胎動不安などに常用する。
また瀉火解毒の効能をもつので、
熱積による吐衄下血あるいは癰疽疔瘡・目赤腫痛にも有効である。
とくに上中二焦の湿熱火邪に適している。
ここでは、清熱燥湿に働く。

人参
人参

人参
基原:ウコギ科のオタネニンジンの根。
加工調整法の違いにより種々の異なった生薬名を有する。
人参は甘・微苦・微温で中和の性を稟け、
脾肺の気を補い、
生化の源である脾気と一身の気を主る肺気の充盈することにより、
一身の気を旺盛にし、大補元気の効能をもつ。
元気が充盈すると、益血生津し安神し智恵を増すので、
生津止渇・安神益智にも働く。
それゆえ、虚労内傷に対する第一の要薬であり、
気血津液の不足すべてに使用でき、
脾気虚の倦怠無力・食少吐瀉、
肺気不足の気短喘促・脈虚自汗、
心神不安の失眠多夢・驚悸健忘、
津液虧耗の口乾消渇などに有効である。
また、すべての大病・久病・大吐瀉による
元気虚衰の虚極欲脱・脈微欲絶に対し、
もっとも主要な薬物である。

甘草
甘草

甘草
基原:マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性
などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると寒性を緩めるなど
薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
ここでは胃の気を和し虚を扶け、
さらに芍薬でもって陰と調和し、
正気を助け邪気を取り除き内と外の調和をとる働きがある。

生薑
生薑

生薑
基原:ショウガ科のショウガの新鮮な根茎。
日本では、乾燥していない生のものを鮮姜、
乾燥したものを
生姜を乾生姜ということもあるので注意が必要である。

生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。

大棗
大棗

大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。
またはその品種の果実。

甘温で柔であり、補脾和胃養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や
営血不足の臓燥など心神不寧に使用する

また薬性緩和にも働き、
峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
ここでは、脾胃を補うとともに
芍薬と協同して筋肉の緊張を緩和していく。
また、生薑との配合が多く、
生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、大棗が営血を益して発汗による
傷労を防止し、営衛を調和することができる。

半夏
半夏

半夏
基原:
サトイモ科のカラスビシャクの
塊茎の外皮を除去して乾燥したもの。
半夏は辛散温燥し、水湿を行らせ逆気を下し、
水湿を除けば脾が健運して痰涎は消滅し、逆気が下降すると
胃気が和して痞満嘔吐は止むので
燥湿化痰・和胃消痞・降逆止嘔の良薬である。
それゆえ、脾虚生痰の多痰、痰濁上擾の心悸・失眠・眩暈、
痰湿犯胃の悪心嘔吐・飲食呆滞・心下痞結にもっとも適する。
ここでは、降逆止嘔に働き胃気を和降する

小柴胡湯について
本方は、少陽半表半裏証に対する主薬であり、
少陽枢機を通調して達邪外解する。
主薬は少陽の専薬である柴胡で、
軽清昇散により少陽の気機を通達し疏邪外透する。
苦寒の黄芩は、少陽の欝熱および欝変した胆火を清する。
柴胡で散じて黄芩で清することにより祛邪するのである。
半夏・生薑は辛温で和胃降逆・散結消痞し、
黄芩とともに辛開苦降に働く。
益気の人参は扶正によって散邪を助け、
大棗・炙甘草・生薑は中焦を振奮し衛気を宣発し、
邪が裏へ侵入するのを防止する。
全体で祛邪を主とし正気にも配慮して胃気を和しており、
「上焦は通ずるを得、津液は下るを得、
胃気よりて和し、身にシュウ然と汗出で解す」の効果が得られ、
汗・吐・下によらず邪を除くので「和解」と称する。

麻黄湯(麻黄・桂枝・甘草・杏仁)
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(中)三十五章

提要:
表証が長引いた場合の弁証と治法について

訳:
太陽病に罹ってすでに十日経ち、
患者の脉は浮細で臥床したがるなら、
表証はすでに解除されている。
もし胸脇が脹って痛むならば、小柴胡湯で治療すればよい。
もし脉がただ浮だけで細でないなら、
麻黄湯で発汗させるとよい。第七法。
柴胡半斤 黄芩 人参 甘草炙る 生薑各三両、切る
大棗十二個、裂く 半夏半升、洗う
右の七味は、一斗二升の水で、六升になるまで煮て、滓を取り除き、
もう一度煎じて三升もで煮つめ、一升を温服し、一日三回服用。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

為沢

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