【カテゴリ】現在、鍼灸師になる為の学生である
【タイトル】漢方と鍼灸の分離は何故?
【相談日時】2015/3/29
【相談内容】以下に続く。

こんにちは。
現在海外で西洋医学校を卒業した後、
興味があり中医学を学んでいるものです。

今現在、中医学の基礎(4診、陰陽五行論等)を学んだ後、
経絡学と生薬、方剤学等を学んでいます。
ブログを拝見し、とても勉強になり有難く思っています。

一つ疑問なのですが、
日本ではなぜ鍼灸は鍼灸のみ、漢方は漢方のみ、
と分離してしまったのでしょうか。
本来の東洋医学の理解が深ければ、
両方ともに使えるのではないでしょうか?
鍼灸と方剤の組み合わせで得られるメリットより
デメリットの方が多いのでしょうか。

〜Aさんより〜


 

林

日本の免許制度にも関係していますね。
日本においては、
単純に鍼灸師には鍼と灸を持つ権利しかありませんし、
漢方薬を扱えるものが鍼を持つには、あえて3年以上専門の学校に行き、
はり師きゅう師の資格を取得する必要があります。
ゆえに、学問上は同じ東洋医学の知識で必要となってくることもあり、
仰られるとおり、両方の勉強を平行して行いますが、
鍼師にとって、方剤学は知識はあっても経験として詰めない。
また、その知識が正しいかどうかを臨床の場で検証することが出来にくい為、
学と術が分離してしまい、
鍼の学と術だけが伸びてしまうという実際があります。
また、そのような実際があるにも関わらず、知識だけで方剤を語るのも
危険であり、胸をはって俺は湯液も修めたという者がいるとすれば正直、怪しい気はします。
実践あっての理論、理論と実践は両輪でありますので。
実践なき理論はやはり輝きにくいのではないでしょうか。
このような背景で両者は制度の犠牲として分離してしまっている。
しかし、方剤学と鍼灸学はともに学ぶ必要があるのに、
なぜ、分離しているのかという問いは、
絶対に東洋医学を学ぶ者には自然発生的に出てくる思いであるはずです。
Aさんの立てられた問いは全うな問いです。
しかしながら、その問い自体を発生することもなく終わる鍼灸師がこの世に
どれだけいることでしょうか。
そのことの方が問題だと僕は思います。
鍼灸師に起承転結がわかりやすいから傷寒論や金匱要略を読んだ方が良いよ
と言っても、なぜそれが必要かを一から例え話を用いながらでも
伝えないと伝わらないという汗でも出そうな現実があるのです(^_^;
或いは読めない。
本質がわかってないから分離して見える。
共通項がつかめない、という者が多いのでしょう。
ですから、Aさんがそのような感情が心の内に起こっているのであれば、
それを何度もやって、特殊な疑問では無く、
日常の一部となればその問いの答えのかけらは得られるのではないでしょうか。
その時には、
なぜ、目の前の多くの者は、これらを分離して考えているのだろうか。
本質が見えないのだろうかという嘆きに置き換わることかと思います。
楽しみにしております。


為沢
為沢

Q.
日本ではなぜ鍼灸は鍼灸のみ、
漢方は漢方のみ、と分離してしまったのでしょうか?

A.
漢方の中に湯液と鍼灸は包括されており
傷寒論などの古医書の中でも
”湯液を用いつつ 鍼灸も施せ”といった内容も所々見らるため
元々は分離はされていませんでした。

歴史的にみて、西洋医学の介入が大きいのでしょう。
西洋医学では大きく内科・外科に分けて
さらに細分化して専門分野に分ける傾向があります。
何年か前に事業仕分けってあったじゃないですか。
西洋医学が与党になってから
東洋医学も鍼灸と湯液で分けられたんでしょうね。

その流れで現代では、
西洋医学の眼鏡で東洋医学を学ぶことが多く
学校でも主に西洋医学をベースとした鍼灸を教えています。
”○○神経に響くように鍼を刺入せよ。”
”××筋肉の緊張を鍼刺激で弛緩せよ。”といった具合です。
鍼のことでさえ、東洋医学を無視した教え方だったので
湯液を学ぶことなんて1mmも無かったです。

もう最初から鍼灸と湯液は全然別物で
教えている側も湯液のことは教わっていないので
教えようがなく、分からないんです。
勿論 しっかり湯液のことを学んでいらっしゃる先生もいますが
鍼灸学校のカリキュラムとして湯液のことは教えません。
なので、鍼灸師の中でも鍼灸と湯液は
別物として考えている方が多くなっちゃったと思います。

Q.
本来の東洋医学の理解が深ければ、
両方ともに使えるのではないでしょうか?
鍼灸と方剤の組み合わせで得られるメリットより
デメリットの方が多いのでしょうか?

A.
仰る通り、
本来の東洋医学の理解が深ければとても有効ですが
理解の深め方によって危険が伴います。

[メリット]
症状だけではなく、患者さんの体の本質を知ろうとすれば
湯液と鍼灸を併用することはとても有効だと私も思います。

[デメリット]
患者さんの体の本質ではなく、
体に出ている症状だけを診て扱う
鍼灸・湯液はとても危険なものになる可能性があります。

西洋医学の基礎知識で扱う漢方には危険がはらんでいます。
主な代表例は「カゼには葛根湯」が分かりやすいですかね?
東洋医学では風寒(場合によっては風寒だけではないですが)
を受ける人の体質により処方する湯液が異なってくるので、
正確には「カゼには葛根湯だけに非ず」です。
「カゼには葛根湯」は製薬会社のただの売り文句です。

なので、西洋医学を軸にした考え方で、
東洋医学の理解を深めるのは危ないのではないかと私は考えます。

長くなりましたが、
Aさんの質問はとても鋭くて
かつ、理解を深めたい情熱も伝わりました。
東洋医学の発展に向けて共に頑張りましょうね!


下野
下野

分離の理由で、
一番考えられることとしては、
明治維新以降の
医療制度の問題でしょう。

ただそれ以前より、
鍼灸=外科、漢方=内科という
世間の考えもあった
という意見もありますし、
貝原益軒も『養生訓』のなかで、
腹痛や気の滞りによる痛み、
急性のものには針、
灸であれば陽気不足、
またそこからの胃腸虚弱に
行う治療と紹介し、
鍼灸に関しては、
治療を行ってはいけない時
(禁忌)についても記されています。
(養生訓に限らず、書かれている書物はあります。)

明治維新より以前から
こういった考えがあったのも
分離、というよりは、
使い分けられていたのも
制度だけでなく人々の意識の中で
影響しているのでは
と、個人的には思います。


 

新川
新川

【鍼灸と漢方が分離した理由】

鍼灸と漢方が分離した要因の一つとして、
第二次世界大戦後に
それまでのはり、灸など伝統的な医療に取って代わり
西洋医学を中心とした医療制度の変換による影響が強いといわれていますが、
歴史的にみると割と最近のことですね。

【鍼灸、漢方を併用することの良い点、悪い点】

鍼灸にしろ、漢方にしろ
正しい診断の上で施されたものに関しては、
効果として問題ないと思います。
併用する場合、
鍼灸と漢方の診立ては、
・同じ人が行う
・共通した診断基準のもとで行われる など
が望ましいと考えます。
いずれにせよ、お互いの作用が邪魔したり、
相反する方向性にいかないような配慮が必要だということです。

ご質問の中にもありました、
「本来の東洋医学」ってそもそもなんだろなというのを考えてみました。
私個人は、
病の本質を知ることが重要であり、
そのためには患者さんの事を
よく理解することが必要だと考えております。

人を知ること。理解すること。その上で臨床的にどんな事が出来るか。

それらの考えの軸がぶれなければ、
いずれの手段にせよ、
有効な手だてとなると思います。


大原
大原

こんにちは。
ブログをご覧頂き、ありがとうございます。
おっしゃるように、
もともと鍼灸と漢方は分離しておず、
両方が用いられていたようです。
江戸時代まではそのような流れで、
医者といえば鍼灸・漢方を用いた治療が
主だったと聞いたことがあります。
その後、明治維新を経て、日本が近代国家を目指していく中で、
富国強兵策などにより、鍼灸や漢方よりも、
外科的な治療を得意とする西洋医学が
国としての主の医学と位置付けられるようになったようです。
その流れが現在も続いているということだと思います。


宮村
宮村

やはり資格制度が
大きな壁としてあると思います。

日本の鍼灸学校では東洋医学・中医学の知識は勉強するが
漢方に関する授業・試験は一切無く、
日本の薬科大学や医科大学ではそもそも中医学に関する
授業がほとんどないのが現状で
鍼灸と漢方は長い間完全に切り離されている状態です。

そのため鍼灸・漢方の両方を扱える人は少なく
日本では本当にごく一部です。

ただそれはメリット・デメリットでそうなっているのではなく
日本の医療は色々な意味で
(技術、法律、教育、東洋医学を始めとした医療に対する一般の認識など)
まだまだ発展途上であると私は考えています。

本来の有るべき形としての鍼灸と漢方の併用も
そういった課題の一つとして鍼灸師だけでなく
医療関係者全体が取り組んで行くべき問題かと。

なのでAさんの様な
西洋医学・東洋医学の両方を修めている方に
活躍して頂ければ今後の医療を発展していくうえでの
大きな励みになると思います。
頑張ってください。


本多
本多

鍼灸と漢方が分けられた理由の一つに、
それぞれを扱うことができるまでの経過の違いがあるのだと思います。
鍼灸と漢方を併用しないと、
あらゆる症状を治すことができないということであれば、
僕らも今からでも漢方を扱えるように努力しなければとは思いますが、
鍼灸だけでも病に立ち向かうことは十分可能であり、
実際に様々な症状が良くなっているのを目にしています。

じゃあ、漢方の知識がいらないのか?というとそうではなく、
漢方の処方を基に鍼灸の配穴へと方向転換させることができますし、
そこから治療の幅を広げることもできるので、
しっかりと学ぶべきだと思います。

2つを併用する場合のメリットとデメリットでいうと、
漢方の処方と鍼灸の弁証が一致していれば
デメリットはないように思います。

Aさんのご質問で、
いくつか考えさせられる部分があり、
ありがたく思っております。
共に頑張りましょう。

 


【当院公式サイト】
 https://www.1sshindo.com/

《住所》
 大阪本院:大阪府豊中市東寺内町5-38
 神戸三宮院:兵庫県神戸市 中央区八幡通4丁目1番15号

《電話》
 大阪本院:06-4861-0023
 神戸三宮院:078-855-4012

《問い合わせ・ご相談》
 https://www.1sshindo.com/inquiry/


3 コメント

  1. 質問させて頂きましたAです。

    皆様、ご丁寧な返事をありがとうございました。鍼灸師皆さんから十人十色の答えを貰えるのはとても豪華ですね!

    それぞれのお答えに自分なりに感じる事が有りました。

    改めて、ありがとうございました。

  2. とても有益な記事です。

    「患者さんの体の本質ではなく、
    体に出ている症状だけを診て扱う
    鍼灸・湯液はとても危険なものになる可能性があります。」

    この文にとても共感しました。漢方のお店にいくつか行って見ると、毎回処方が異なります。症状を基準に処方するから、訴える内容が変わると処方も変わってしまいます。症状は日によって変わるものです。
    まずは体質を診て欲しいです。

    • yshoさん
      コメント拝読しました。
      漢方の処方が毎回異なるそうですね。
      毎回処方を変えているのであれば、手探り状態で迷っているのかと思います。
      (施療を重ねる毎に体質が変わってきて、
      症状の出方・ニュアンスや表現などが変わってきたら
      その都度、処方を変えていくのは宜しいかと思います)

      症状を追うことも大事ではありますが、
      体質を診ること、または施療を重ね体質の変化を追っていくことも
      とても重要になってきます。
      コメントありがとうございました⭐︎

A にコメントする 返事をキャンセル

Please enter your comment!
Please enter your name here