こんにちは、為沢です。

今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(上)十四章を御紹介致します。
ここでは、風邪が太陽の経輸にやどった
(桂枝湯証に肩こりがある)時の証治について述べております。


弁太陽病脈証并治(上)

十四章

太陽病、項背強几几、
反汗出、惡風者、桂枝加葛根湯主之。方三。
葛根四兩 麻黄三兩、去節 芍藥二兩
生薑三兩、切 甘草二兩、炙 大棗十二枚、擘 桂枝二兩、去皮
七味、以水一斗、先煮麻黄、
葛根、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、溫服一升。
覆取微似汗、不須啜粥、余如桂枝法將息及禁忌。

 

和訓:
太陽病、項背強ばること几几、
反って汗出で、惡風する者は、桂枝加葛根湯之を主る。
葛根四兩 麻黄三兩、去節 芍藥二兩
生薑三兩、切 甘草
二兩、炙 大棗十二枚、擘 桂枝二兩、去皮
右七味、水一斗を以て、先ず麻黄、葛根を煮て、
二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。
覆いて微かに汗するに似たるを取り、粥を啜るを須いず、余は桂枝の法の如く将息及び禁忌す。


項背強几几
几几の読みは「シュシュ」と「キンキン」の二説があり、
「シュシュ」は翼の小さい鳥が、
首を伸ばして飛ぼうとして飛べない状態のことで、
「キンキン」は緊張してひきつる様子を指す。
どちらも首の後ろから背にかけて
強く強張った状態にあること形容している。

反汗出
項背強几几とあれば、
寒邪が太陽経の経気を阻害し本来なら汗は出ないはずだが
汗が出ているので、「反」と表現されている。

方義

葛根
葛根

葛根
葛根は甘潤・辛散で偏涼であり、
脾胃の二経に入って陽明に作用する。
陽明は肌肉を主るので解肌退熱・透発斑疹に働き、
胃中の清気を鼓舞上行して津液を上承、
筋脈を濡潤して攣急を解除。
生津止渇・止瀉の効能をもたらす。
表証の発熱・無汗・頭痛・項強に対する主薬である。
ただし、発汗の力は強くなく解肌退熱にすぐれているので、
邪欝肌表の身熱不退には
口渇・不渇、有汗・無汗を問わず使用するといい。

麻黄
麻黄

麻黄
辛温・微苦で肺・膀胱に入り、
辛散・苦降・温通し、肺気を開宣し腠理を開き
毛窮を透して風寒を発散するので、
風寒外束による表実無汗や肺気壅渇の喘咳の常用薬である。
宋版『傷寒論』では、この麻黄が含まれているが、
校正した林億らは後注で
「既に汗が出ているのだから、
麻黄があるのは妥当ではない」
としている。
そこで後世の注釈家の多くは
林億らの見解に準拠して麻黄を取り去っている。

芍薬
芍薬

芍藥
芍薬には<神農本草経>では
赤白の区別がされておらず
宋の<図経本草>ではじめて
金芍薬(白芍)と木芍薬(赤芍)が分けられた。
白芍は補益に働き赤芍は通瀉に働く。
桂枝湯同様、ここでは白芍を用いる。
白芍は苦酸・微寒で、酸で収斂し苦涼で泄熱し、
補血斂陰・柔肝止痛・平肝の効能を持ち
諸痛に対する良薬である。

生薑
生薑

生薑
生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。

甘草
甘草

甘草
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
ここでは胃の気を和し虚を扶け、
さらに芍薬でもって陰と調和し、
正気を助け邪気を取り除き
内と外の調和をとる働きがある。

大棗
甘温で柔であり、
補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、
峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、
脾胃損傷を防止する。

桂枝
桂枝

桂枝
桂枝は辛甘・温で、
主として肺・心・膀胱経に入り、
兼ねて脾・肝・腎の諸経に入り、
辛散温通して気血を振奮し営衛を透達し、
外は表を行って肌腠の風寒を緩散し、
四肢に横走して経脈の寒滞を温通し、
散寒止痛・活血通経に働くので、
風寒表証、風湿痺痛・
中焦虚寒の腹痛・血寒経閉などに対する常用薬である。
発汗力は緩和であるから、
風寒表証では、有汗・無汗問わず応用できる。

 

提要
太陽経脈が邪気に傷害されて出現する
桂枝加葛根湯証の、病証上の特徴と証治について。

 


太陽病に罹り、項背部がひきつれてこわばるが、
しかし反って汗が出て悪風するものは、桂枝加葛根湯で治療する。
処方を記載。第三法。
葛根
四両麻黄三両、節を除く芍薬二両生姜三両、切る甘草二両、炙る 大棗十二個、裂く桂枝二両、皮を除く
右の七味は、一斗の水で、まず麻黄と葛根を、水が二升減るまで煮て、浮かんだ泡を取り去ってから、
残りの諸薬を入れ、三升になるまで煮て、 滓を除く。温いうちに一升を服用し、わずかに汗ばむほどに覆い
粥はすすらなくてよいが、 その他の療養法や禁忌については桂枝湯と同じ。

 


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

為沢

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