一鍼堂(いっしんどう) 大阪心斎橋本院

疾患別解説

前立腺炎の東洋医学解説

現代でいう前立腺炎の症状は、多岐に渡る。
「排尿痛」「頻尿」「残尿感」
「陰部の疼痛」「睾丸の不快感」「下肢の違和感」「勃起障害」など・・
その中でも、
「排尿痛」と「陰部の疼痛」に焦点をあて、解説していく。

◉東洋医学における解釈

【排尿痛】
東洋医学では、
「淋証(りんしょう)」「尿痛」ともいい、
排尿時に尿道の疼痛が生じ、
刺すような痛み、灼熱性の痛み、しみるような痛み、しぼるような痛み など
さまざまな種類の疼痛があり、また同時に排尿困難をともなう。

●古典からの引用

《黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)》六元正紀大論篇 第七十一より
「其病中熱脹、面目浮腫、善眠、

鼽衄嚔欠嘔、小便黄赤、甚則淋。」

→(顔や目が腫れ、眠くなりやすく、
鼻づまり・鼻水・鼻血・くしゃみ・あくび吐き気などが起こり
小便の色が黄色や赤になり、ひどい場合には漏れしたたり、通じが悪くなる)

「熱至則身熱、~淋閟之病生矣。」

→(熱気が極度になった場合は、~排便排尿困難などの症状となる)


《金匱要略(きんきようりゃく)》五臓風寒積聚病脈証并治第十一より
「熱在下焦者,則尿血,亦令淋秘不通」

→(熱が下焦にあると、尿血、また淋秘によって通らず)

《中蔵経(ちゅうぞうきょう)》第四 論淋瀝小便不利第四十四より
「諸淋與小便不利者五臓不通六腑不和」

→(淋による小便不利は、五臓が不通で六腑が不和である)
とあり
「淋」を「冷・熱・気・労・膏・砂・虚・実」の8種に分類し解説している。

《諸病源候論(しょびょうげんこうろん)》淋病諸侯 八論より
「諸淋者、由腎虚而膀胱熱故」


→(淋病は、腎虚で膀胱に熱があることによる)
とあり、
その後「石淋」「気淋」「膏淋」「労淋」「熱淋」「血淋」「寒淋」に分類し解釈している。

《景岳全書(けいがくぜんしょ)》癃閉 論治 共七條より
「火在下焦、而膀胱熱閉不通者、~及溺管疼痛等證」
→(下焦に火があり、膀胱が熱にて閉塞し通じざるは、~溺管疼痛などをあらわす)
としている。


●東洋医学における原因と治療法

下焦湿熱
脂っこいものや甘いものの過食・多量の飲酒などで
湿熱(しつねつ)が生じて下焦に下注したり、
湿熱の邪を感受して発生する。

①血淋(けつりん)
湿熱が膀胱に下注し、血熱が妄行したもので、
排尿時の熱感・疼痛と血尿がみられる。

治法:
清熱利湿(せいねつりしつ・熱を冷まし湿を散らす)
凉血止血(りょうけつしけつ・血熱を冷まし血を止める)

②膏淋(こうりん)
湿熱が膀胱に下注し、膀胱の気化が失調して
清濁(せいだく)が分けられなくなったもので、
排尿時の熱感・疼痛とともに米のとぎ汁様の混濁尿(こんだくにょう)がみられる。

治法:
清熱利湿(せいねつりしつ・熱を冷まし湿を散らす)
分清泌濁(ぶんせいひつだく・清濁を分別する)

③石淋(せきりん)
湿熱が下注して尿を濃縮し石を形成したもので、
排尿時の刺痛・排尿困難とともに結石の排出がみられる。

治法:
清熱利湿(せいねつりしつ・熱を冷まし湿を散らす)
通淋排石(淋を通じさせ、石を排出する)


心火
内傷七情(ないしょうしちじょう・喜、怒、憂、思、悲、恐、驚の感情により身体に影響を与えること)で
心火が盛んになり、心火が小腸に熱を移したために発症する。

治法:
清心瀉火(せいしんしゃか・心熱を冷まし、火を散らす)


下焦血瘀
外傷の気滞血瘀(きたいけつお)・寒邪侵入による
蓄血証(ちっけつしょう)などで、
瘀血が下焦に停滞し、血が循経せず溢血(いっけつ)し、
膀胱の気化が失調して発症する。

治法:温陽化瘀(おんようかお・陽気を温め、瘀血を取る)


肝鬱気滞
悩怒などで肝気鬱結・化火し、
気化が下焦に鬱して膀胱の気化を失調させて発生する。

治法:
疏肝理気(そかんりき・肝気を促し気を動かす)


腎陰虚
房室不節(ぼうしつふせつ・過度の性行為)・熱病傷陰などで腎陰が虚し、
内熱により膀胱の気化が失調して清濁不分の
「膏淋」を生じたり、陰虚火旺で血熱妄行の「血淋」を生じる。

治法:
滋陰降火(じいんこうか・陰分を潤わせ火を降ろす)

【陰部の疼痛】
東洋医学では、
茎中痛痒(けいちゅうつうよう)といい、
疼痛が主体のものを「茎中痛(けいちゅうつう)」、
痒みを伴うものを「茎中痛痒」という。


●古典からの引用
《黄帝内経霊枢(こうていだいけいれいすう)》経筋篇より
足の太陰経筋の病症として
「陰器紐痛」


と記す。

《諸病源候論(しょびょうげんこうろん)》虚労陰痛候より
「但冷者唯痛、挟熱則腫」


→(冷のものただ痛み、熱を挟めばすなわち腫る)とあり

また同書の淋病諸侯 石淋候にも
「小便則茎裏痛」

→(排尿時に尿道が疼痛する)とある。


●東洋医学における原因と治療法

湿熱
湿熱が膀胱に下注したために発生する。
特徴として、
陰茎の疼痛あるいは疼痛と痒みがあり、
尿の混濁がみられることもある。

治法:清熱利湿(せいねつりしつ・熱を冷まし湿を散らす)


火熱
心火が小腸の移熱したために発生し、
熱が心、小腸にある。
特徴は、
口内炎・焦燥感・不眠・などを伴う。

治法:
清心火(せいしんか・心火を冷ます)
利小便(りしょうべん・小便を出しやすくする)


瘀血
茎中に瘀血が阻滞するために発生する。
激烈な痛みが特徴で、
「痛みて死せんと欲す」という記述もあり、
血尿を伴うことがある。

治法:
活血化瘀(かっけつかお・血を流し瘀血を取る)


・腎虚
房室不節(ぼうしつふせつ・過度の性行為)あるいは射精をこらえるなどにより、
腎気を損傷したために発生する。
疼痛は強くなく、腰がだるく痛む・排尿後の余瀝などを伴う。

治法:
温補腎気(おんほじんき・腎気を温め補う)




◉西洋医学からみた前立腺炎

前立腺は、男性のみにある生殖器で、
大きさはクルミぐらいで、膀胱のすぐ下に位置する。

その前立腺になんらかの原因で炎症を起こしている状態が前立腺炎である。
ほとんどの世代でみられるが、高齢男性より若年で多い。
米国国立衛生研究所(National Institute of Health; NIH)による前立腺炎の分類では,
・急性細菌性前立腺炎
・慢性細菌性前立腺炎
・慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群
・無症候性炎症性前立腺炎
の四つに分けられる。

特に、「慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群」は全体の90%以上を占める。

・原因
主な要因として
感染性であれば細菌感染があげられる。
非感染性の場合、
長時間にわたるデスクワークなどの座位姿勢による血流の鬱滞や、
精神的なストレスも増悪因子としてあげられるが、まだ十分に解明されていない。

・症状
排尿症状:
頻尿、残尿感、尿の勢いが弱い、排尿後尿が漏れてくる、排尿痛、尿道の違和感

腹部症状:
下腹部、足の付け根、会陰部(肛門の前)の鈍痛、違和感、不快感

その他:
睾丸の鈍痛や不快感。陰のうの痒み。下肢(特に太もも)の違和感、しびれ感。
勃起障害(ED)の原因になることもあり

・診断法
・直腸診
前立腺の大きさ・硬さ、表面のなめらかさを肛門から直接指で触って確認する。
・尿検査
尿検査には尿定性検査と尿沈渣(にょうちんさ)の2つの種類がある。
尿定性検査は短時間で結果が判明する点が優れていて、
白血球や赤血球、タンパク質の有無や程度をしることができる。
尿の状態を素早く大まかに知ることができる尿定性検査だが、
尿の状態を詳しく調べることはできないとされている。

尿沈渣は尿を機械で遠心分離して沈殿したものを顕微鏡で観察する検査。
尿を人の目で観察するので赤血球や白血球の数はもちろん、
細菌なども観察することができる。

その他にも
・血液検査
・尿の塗抹検査(とまつけんさ)
・尿の培養検査(ばいようけんさ)
・遺伝子検査
・超音波検査
・CT検査
・MRI検査
などを行う事もある。

・治療
抗生物質、植物製剤(セルニルトン)、漢方薬などで治療する。

・予後
症状が完全に取れなくて
長期間(数ヶ月単位)の治療が必要になることもある。

治癒・再燃を繰り返すこともあるので、
日頃から日常生活について注意することが必要。

参照:「厚生労働省委託事業 公益財団法人日本医療機能評価機構 HP」

新川
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参考文献:
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『[標準]中医内科学』
『中医基本用語辞典』
『現代語訳◉黄帝内経 素問 下巻』
『現代語訳◉黄帝内経 霊枢 上巻』東洋学術出版社

『基礎中医学』
『症状による 中医診断と治療』 燎原書店

『校釈 諸病源候論』 緑書房

『鍼灸医学辞典』 医道の日本社

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