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三叉神経痛の東洋医学解説


◉東洋医学における三叉神経痛(さんさしんけいつう)


①概要

東洋医学では「面部疼痛(めんぶとうつう)」と言い、
顔面部の一部、又は全体の皮膚や骨格の疼痛で、
臨床的には顔の半側(半分)の疼痛が多いとし、
これが三叉神経痛に相当するされている。
またWHO(国連の保健衛生分野である世界保健機関の略。
人の健康を人権と考え、健康を達成する為に設立された。)も
鍼灸治療適応疾患と発表している。

古くは
『黄帝内経 素問(こうていだいけい そもん)』の「刺熱(しねつ)論篇」に

「脾熱病者、先頭重、頬痛、煩心、顔青欲嘔、身熱。

・・・・腹満泄、両頷痛。」

(「脾(ひ)の熱病は、先ず頭が重くなり、頬(ほお)が痛み、胸が苦しく、
顔色が青くなって吐き気がし、発熱する。
・・・・腹は張って下痢をし、両頷(あご)が痛くなる。」)
と記載があり、
これが三叉神経痛の最初の記載ではと考えられている。

その後、先人達が治療を重ね
病の成り立ち(病因病機(びょういんびょうき))と
その治療方法(弁証論治(べんしょうろんち))が確立された。
以下に弁証論治を挙げていく。

②弁証論治

顔の痛みと言っても、
病の性質によって症状、治療方法は大きく異なってくる。

●風熱狭痰阻絡(ふうねつきょうたんそらく)
飲食物を消化し、栄養(水穀の精微・すいこくのせいび)を全身に運搬する
脾の機能が低下(脾虚・ひきょ)すると
湿痰(しつたん・脾が弱いことで水や湿が体内に溜まり、
尚且つ長期間停滞し生じた病態。)が生じる。
そこに自然界の気候や異常気象によって生じた
*風邪(ふうじゃ)と*熱邪(ねつじゃ)の
一体となった風熱(ふうねつ)の邪が、
人体を侵襲した結果、
先述の痰と結びついて発症したもの。

*邪:人体を侵し、病を引き起こすもので、
   風・寒・湿・熱・燥・火の六つの邪(六淫:りくいんと言う)がある。

【主症状】
発作性の灼熱性、または切られたような激しい痛み、
痛みが出るときは顔面の紅潮や発汗を伴う、
温めると痛みが増し、冷やすと軽減する。
発熱や微熱を伴うこともある。

【治法】
風邪と熱邪を散じて、同時に痰を取り除く。
 疏風散熱(そふうさんねつ・風邪をさり、熱邪を発散させる)
 滌痰活絡(じょうたんかつらく・痰をさばき経絡を通す)

●風寒狭痰阻絡(ふうかんきょうたんそらく)
風熱狭痰阻絡と同様に痰と、
風邪と寒邪(かんじゃ・六淫の寒の邪(冷え))の一体となった
風寒(ふうかん・外感六淫の風邪と寒邪が結びついたもの)
の邪が結びついた病態。

【主症状】
発作性のひきつるような激しい痛み、
痛みが出るときは顔面が蒼白し、
冷すれば悪化し、温めると軽減する。
発熱や寒気を伴うこともある。

【治法】
風邪と寒邪を散じ、同時に痰を取り除く。
 疏風散寒(そふうさんかん・風邪をとり、寒邪を散じる)
 滌痰活絡(じょうたんかつらく・痰をさばき経絡を通す)

●肝鬱化火(かんうつかか)
悩みや心配事、イライラが続く事によって
肝の気を動かす働き
(疏泄:そせつ・肝の生理作用の一つであり、臓腑と精神活動を円滑に保つ)
が失調して気が滞り、長期間滞ることで熱化し顔を犯した病態。

【主症状】
灼熱性の痛みで、情緒の変動でによって痛みが出現し、
温めると悪化する。
口が苦いや目の充血、胸の張って痛む、便秘等を伴う。

【治法】
肝を鎮めて熱を捌き、気血の滞りを改善する。
 清肝瀉火(せいかんしゃか・肝の亢進を抑え、肝火の熱を冷ます)
 通経活絡(つうけいかつらく・経絡を通して、気血を巡らす)

●胃火上炎(いかじょうえん)
普段から辛いものや脂っこいものばかり食べて発症したものや、
熱病が胃に伝わったもの、
情緒の乱れから肝火(かんか・過度の情緒の乱れから、肝の気が炎上した病態)
して、その火が胃を犯したこと病態。

【主症状】
灼熱性の痛みで、飲食や情緒の乱れで出現し、
歯茎に痛みがでやすい。温めると悪化する。
息が熱を持っているので悪臭がしたり、
空腹感が消えない。

【治法】
胃の熱を取り除く。
 清胃瀉火(せいいしゃか・胃の亢進を抑え、胃の火(熱)を冷ます)

●気虚血瘀(ききょけつお)
症状が長期間持続したことで気血を消耗し、
血液を動かせなかった為に起こった病態。

【主症状】
慢性的な刺すような痛みで、
痛みが治まるまでの時間が長い。
時に筋肉が痙攣する。
息切れや顔色が黒い、声に力がない等を伴う。

【治法】
気を補って血の流れを良くし、滞りをなくす。
 補気活血(ほきかっけつ・気を補い、血の流れを良くする)
 化瘀通絡(かおつうらく・流れの悪い経絡を通す)


◉西洋医学における三叉神経痛

①概要

西洋医学的には神経の痛み(神経痛)と考える。

ヒトの頭・顔には
・痛みや臭い、視る、聞く等の感覚を支配する神経
・眼や口、表情をつくる等の筋肉の運動を支配する神経
・上記2つの両方を支配する神経
が分布しており、脳神経と呼んでいる。
その中の三叉神経の障害による痛みから「三叉神経痛」と言う。

三叉神経という名称は
下図のように
・第一枝:眼神経 (がんしんけい)
・第二枝:上顎神経 (じょうがくしんけい)
・第三枝:下顎神経 (かがくしんけい)
三つの神経に枝分かれしていることに由来し、
それぞれの領域の知覚を支配する。

                   『ぜんぶわかる 人体解剖図』成美堂出版
               P111 「明解図解 三叉神経と顔面神経」より引用

つまりどこの「枝」が原因かによって、
症状が頬に出たり、額(ひたい)に出たり、
顎に出たりと異なってくるのである。

三叉神経痛は
・特発性三叉神経痛(とくはつせいさんさしんけいつう)
・症候性三叉神経痛(しょうこうせいさんさしんけいつう)
に分けられるが、
一般的に「三叉神経痛」とは特発性を指す。

②原因と治療方法

●特発性三叉神経痛
【症状】
顔面の片側に、突発的な刺されたような激痛。
洗顔や会話、冷風に当たる等で誘発される。
また触ると痛みが誘発される部分(トリガーポイント)がある。

【原因】
原因不明。
近年では脳血管による三叉神経の圧迫が
原因では?と考えられている。

【治療】
・内服治療
三叉神経痛には鎮痛薬(痛み止め)は効果がないことが多く、
抗けいれん薬の内服となる。

・三叉神経ブロック注射
内服治療で効果がない場合に用い、
三叉神経に局所麻酔薬や神経破壊薬を注射する。

・微小血管減圧術(手術療法)
血管による神経圧迫が原因と判明した場合、
圧迫している血管を移動させて、
三叉神経への圧迫を減少させる手術。
7~9割で痛みが消失するようだが、
三叉神経に触れてしまうことで
感覚異常や難聴の症状を発症することもある。

・ガンマナイフ(放射線照射)
高齢患者で手術のリスクが高い場合に、
放射線を照射する。
照射の精度が非常に高いとされている。

●症候性三叉神経痛
【症状】
特発性三叉神経痛に比べて感覚異常を伴い、
トリガーポイントが明らかでない。

【原因】
脳腫瘍や梅毒、動脈瘤(どうみゃくりゅう)、ウイルス感染など。

【治療】
特発性とは異なり、
他の疾患によって併発した症状であるため、
原因となっている疾患の治療が必要となる。

三叉神経痛の症状を呈す場合、
特発性か症候性かの鑑別が重要となる。

[記事:下野]


参考文献:
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社

『基礎中医学』
『症状による 中医診断と治療』 燎原書店

『鍼灸医学辞典』 医道の日本社

『ぜんぶわかる 人体解剖図』 成美堂出版

『病気がみえる vol.7 脳・神経』 メディックメディア

『わかりやすい 臨床中医臓腑学』
『臨床 医学各論』
『最新 医学大事典』 医歯薬出版株式会社

 

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