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癲癇(てんかん)の東洋医学解説


てんかんとは、漢字で「癲癇」と書くが、
それぞれの字義は
「癲」(てん):
倒れる・ひっくり返る、あるいはこの一文字でてんかんを意味する

「癇」(かん):
小児のてんかんを意味する
となり、てんかんの発作である「倒れる」という意味合いが大きいことが窺える。

また、WHO(世界保健機関)によると、てんかんとは
「種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であり、
大脳ニューロンの過剰な発射に由来する
反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、
それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう」ものをいう。

人間の体には神経が張りめぐらされ、
その神経の中を弱い電気信号が通ることにより、
脳からいろいろな情報が各組織に伝達される。
この指令は、意識的なものだけでなく、
無意識で動くものも含まれる。

しかし、脳内の電気信号が何らかの原因で一斉に過剰に発生すると、
その各組織の運動などをつかさどる脳の部位の機能が乱れ、
脳は適切に情報を受け取ることや命令ができなくなり、
体の動きをコントロールできなくなる。

通常、脳の神経は、
興奮が強くなりすぎると、その興奮を抑えるために
抑制側の神経が働いてバランスを取る。
しかし、興奮系の神経が強く働きすぎたり、
抑制系の神経の力が弱まることで、
激しい電気的乱れ(過剰興奮)が生じ、これがてんかん発作となる。



●てんかんの分類
てんかんは、脳の過剰な興奮によるが、その興奮がみられる脳の範囲によって、

・部分てんかん(局在関連てんかん)
・全般てんかん

に分けられ、さらに、
発作を引き起こす原因によって、

・特発性(明らかな脳の病変が認められない場合)
・症候性(明らかな病変が認められる場合)

に分けられる。(原因についての詳細は下記に記す。)
また、「部分てんかん」と「全般性てんかん」の、
どちらか決められないものを「未決定てんかん」とする。


●てんかんの原因
「特発性てんかん」
検査をしても異常がみつからず、原因不明とされるてんかんをいう。
てんかんの多くは遺伝しないと考えられているが、
特発性てんかんの一部には「てんかんになりやすい傾向」
が遺伝する可能性も指摘されている。
しかし、現在でも不明な点が多いとされている。

「症候性てんかん」
脳に何らかの障害が起きたり、
脳の一部に傷がついたことで起こるてんかんをいう。
たとえば、出生時に脳に傷がついたり、
低酸素、脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞、脳外傷、
アルツハイマーなどが原因で脳が傷害を受けた場合に起こる。


●てんかんの治療
薬物治療が主で、脳の神経細胞の電気的な興奮をおさえたり、
興奮が他の神経細胞に伝っていかないようにすることで
発作の症状をおさえる「抗てんかん薬」を用いる。
薬物療法で発作が抑制されない難治性てんかんに対して、
外科手術による治療を検討する。

●てんかん気質とは
1921年に、ドイツの精神医学者クレッチマーは、
てんかんと、体型・性格の間に一定の関係があることを発表し、
「てんかん病質」とは「粘着性」と「爆発性」が異常に偏ったものであると考え、
「粘着気質」→「てんかん病質」→「てんかん」
という発展的関連性を予測した。

しかし、てんかんの疾病には多様性があることから、
体型や性格だけに基づいて
てんかんの発症を予測するには不十分であるとされている。


参考文献:
『医学大辞典』 南山堂

参考URL:
公益社団法人 日本てんかん協会  http://www.jea-net.jp/index.html
てんかんinfo  http://www.tenkan.info


東洋医学における「てんかん」について

「癲癇(てんかん)」と関係の深い東洋医学の用語として
「癲(てん)」、「狂(きょう)」、「癇(かん)」
などがある。

共通するのは、
どれも精神異常を主症状としている点であり、違いとして、

・癲癇(てんかん):
突然倒れて意識を失う発作性のもので、
単に、癇(かん)、または癇証、羊癇風(ようかんふう)、
癲疾(てんしつ)ともいう。

・癇(かん):
癲癇(てんかん)に同じ。

・癲(てん):
精神が抑鬱されて表情が漠然として、静かで動きが少ないもの。

・狂(きょう):
精神が亢進し、狂躁凶暴で騒いで落ち着かず、動いて怒りやすいもの。
となる。
ただ、これらは同義語として相互に用いられる場合もある。

また、癲(てん)と狂(きょう)は、
症状の上ではっきりと区別することができない場合が多く、
2つをまとめて癲狂(てんきょう)とあらわすことが多い。

現代中医学では、癲癇(てんかん)が形成される要因は
①先天的な要因
②七情(精神面・気持ち)の失調
③脳部の外傷
④過度の疲労などによる臓腑の弱り
などが挙げられ、さらには
⑤痰(たん)の影響が重要であるとする考察も多くみられる。

痰とは、体内の水分がうまく吸収されなかったり、
排泄されずに溜め込まれ、
気機(きき:気の流れ)を阻害して
病の原因となり得るものである。

要因などについての詳細を、以下に述べていく。


①先天的な要因

てんかんや、それに関係する病に関する記述は、
古くは黄帝内経(こうていだいけい)において
詳細な記述が見られるが、
以下の記述は、
癲(てん)が先天性要因(生まれつきの体質)と
関係があることを述べている。

黄帝内経 素問 奇病論篇(47)より
帝曰、人生而有病巓疾者。
病名曰何。安所得之。
岐伯曰、病名為胎病。
此得之在母腹中時。
其毋有所大驚、氣上而不下、精氣并居。
故令子発為巓疾也。

(読み)
人、生まれながらにして癲疾(てんしつ)を病む者あり。
病 名付けて何というや。安(いづ)れの所にかこれを得るや。
岐伯いわく、病、名付けて胎病となす。
これ、これを母の腹中にあるときに得る。
その母、大いに驚く所ありて、気上がりて下らず、精気、並びて居す。
ゆえに子をして発して癲疾(てんしつ)とならしむるなり。

(意味)
母親が非常に大きな精神的ショックを受け、気が逆上し、
精気も同じように逆上したままで、その影響が胎児に波及して
癲癇の病となったのである。


②七情(精神面・気持ち)の失調

驚きや恐れは、気機(気の流れ)を乱してしまい、
臓腑の負担や弱りを生んでしまう。
すると、心神(精神面を主る身体の機能)の働きが阻害され、
癲癇などが引き起こされやすくなるとしている。

黄帝内経 素問 挙痛論篇(39)より
恐則気下、驚則気乱。

(読み)恐れればすなわち気下り、驚けばすなわち気乱れる。

また、景岳全書の癲狂痴呆篇(てんきょうちほうへん)では、
小児のてんかんについて
極度の驚きを受けると、意識の居所がなくなり、
痰邪が災いをおこすようになる
といった記述がみられる。


③脳部の外傷

『本草綱目(ほんぞうこうもく)』では、
脳は「元神(がんしん)の府(ふ)」とされており、
脳と心神は密接な関係があるとしている。

転んだり物にぶつかったり、また、
出産時に難産であったりして頭部に損傷を受けると
心神への影響も大きくなることで
癲癇などが引き起こされやすくなる。

また、清の時代の『医林改錯(いりんかいさく)』では、
気血が凝滞し、脳と内臓の気が連絡しなくなることが
癲狂(てんきょう)の発生の原因であるとした。


④臓腑の弱り

心腎不交(しんじんふこう)証
極度の疲労などにより、
身体の陰気を主る腎の気が損傷することによって
陽気を主る心神が浮越(ふえつ:離れてしまって機能しなくなること)して、
癲狂(てんきょう)に移行してしまうこともあるとされている。

関連する内容として、難経の二十難では
重陽のものは狂し、重陰のものは癲す」とあり、
癲と狂は陰陽のバランスを著しく失った状態であるという
説明がなされている。

ここでの「陰陽」とは、
身体は(静止・肉体など)と(活動・機能など)という
対立した二つのものによって成るという考え方によるものであるが、
五臓に置き換えると
陰気→腎が主る
陽気→心が主る
となることから、
臓腑においては上述の
心・腎の働きが相互に作用しなくなる心腎不交証
が相当すると考えられる。


⑤痰(たん)の影響

痰(たん)とは、
体内の水分がうまく吸収されなかったり、
排泄されずに溜め込まれ、気機(きき:気の流れ)を阻害して
病の原因となり得るものである。

痰火擾心(たんかじょうしん)証
痰火(痰と火が結合した病邪)が
心神(精神面を主る身体の機能)に影響し、
これが癇証(てんかん)に発展することもあるとしている。


イメージ図(痰によって心気が阻害されている様子)

中国において、元代に活躍し多くの医書を残した
朱丹渓(しゅたんけい)の著書
『丹渓心法(たんけいしんぽう)』では、
「癇(かん)の発生は、すべてが痰や涎(ぜん:痰のように、体内で水分の吸収や排泄がうまくいかずに停滞しているもので痰よりも稀薄なもの)の集積や詰まりによって心竅(しんきょう:心の気機が通じる穴)を迷悶せしめたものである」
としている。

また、清の時代の『読医随筆(どくいずいひつ)』では、
痰の凝結と瘀血によって心気が塞がれば、
神機を停滞させて癲(てん)が発生するとした。

その他の多くの医家によって、
臓器が穏やかだでない状態が痰を招き、
それらが大量に集積して気の道を塞いで
癲癇が発生すると考えられていたようである。


治療

治法としては、
現代中医学では心神の働きを阻害している瘀血や痰といった
邪実(病の原因となったもの、身体の負担)を取り除くこと、
また、心神が働かないきっかけとなった
他臓の虚(弱り、不足)を補うことが重要であるとされている。

また、次の記述は、黄帝内経における
癲(てん)についての記述である。
癲の症状についての分類や治療法が記されている。

黄帝内経 霊枢 癲狂篇(22)より

癲疾始生、先不楽、頭重痛、視挙目赤。

(読み)
癲疾の始めて生ずるや、まず楽しまず、頭重く痛み、視て挙目赤し。

(意味)
癲癇の起こり始めは、まず楽しまず、頭は重く痛み、
目はまっすぐに直視して真っ赤になる。


甚作極、已而煩心。

(読み)
はなはだ作(おこ)ること極まれば、すでにして煩心す。

(意味)
癲癇発作が頻繁に起こるようになると、
心が乱れて落ち着かず、いらいらするようになる。


候之于顏。取手太陽陽明太陰、血変而止。

(読み)
これを顔にうかがう。手の太陽、陽明、太陰に取り、血変じて止む。

(意味)
医者はこれを表情や顔色で判断するのである。
治療では手の太陽経、陽明経、太陰経に治療穴を取り、
血(けつ)が動くと発作が治まる。


癲疾始作、而引口啼呼喘悸者、候之手陽明太陽。
左強者攻其右、右強者攻其左、血変而止。

(読み)
癲疾が始まり作(おこ)りて、口を引き啼呼喘悸(ていこぜんき)する者は、
手の陽明、太陽に候う。
左強き者はその右を攻め、右強き者はその左を攻め、血変じて止む。

(意味)
癲癇の発作が始まって、口角がひきつれ、
涙を流しながら声を出して、呼吸困難で動悸がする場合は
手の陽明経、太陽経を診る。
経の左側が強ければ右側を刺鍼し、
右側が強ければ左側を刺鍼して、血(けつ)が動くと発作が治まる。


癲疾始作、先反僵、因而脊痛、
候之足太陽陽明太陰手太陽、血変而止。


(読み)
癲疾が始まり作(おこ)りて、まず反僵し、よりて脊(せき)痛むは、
足の太陽、陽明、太陰、手の太陽に候い、血変じて止む。

(意味)
癲癇の発作が始まって、まず背中や腰がが弓のように反って
固くなり背骨に痛みが出る場合は、
足の太陽経、陽明経、太陰経、手の太陽経を診て治療を行い、
血(けつ)が動くと発作が治まる。

また、次の記述では
癲(てん)の病位(びょうい:病の深さ・場所)によって分類している。


・骨に病のある「骨癲疾」について

骨癲疾者、顑歯諸腧分肉、皆滿而骨居、汗出煩悗。
嘔多沃沫、氣下泄、不治。

(読み)
骨(こつ)癲疾なる者は、顑歯(かんし:顎の骨・歯)、
諸腧(しょゆ)、分肉(ぶんにく)、
皆満ちて骨のみ居り、汗出でて煩悗(はんばん)す。
嘔して沃沫(よくばつ)多く、氣下に泄(も)れるは、治せず。

(意味)
病が深く骨にまで達した場合、
体が痩せ衰えて骨だけとなり、顎や歯の兪穴や肌肉には邪気が充満し、
汗が出て煩悶する。
もし、白い唾液をたくさん吐き、気が下にもれれば不治の病である。

・筋に病のある「筋癲疾」について

筋癲疾者、身倦攣急大。
刺項大経之大杼脉。嘔多沃沫、氣下泄、不治。


(読み)
筋(きん)癲疾なる者、身倦(ま)き、攣急(れんきゅう)して大なり。
項の大経の大杼脉を刺す。嘔して沃沫多く、氣下に泄(も)れる、治せず。

(意味)
病が深く筋にまで達した場合、
筋肉がひきつり体が曲がりちぢまり痙攣する。治療では大杼穴を刺す。
もし、白い唾液をたくさん吐き、気が下にもれれば不治の病である。

・脈に病のある「脈癲疾」について

脉癲疾者、暴仆、四肢之脉皆脹而縦。
脉満、尽刺之出血。
不滿、灸之挾項太陽、
灸帯脉于腰相去三寸、諸分肉本輸。

嘔多沃沫、氣下泄、不治。

(読み)
脉癲疾なる者、にわかに倒れ、四肢の脉皆脹して縦(ゆる)む。
脉満つるは、尽(ことごと)く之を刺して血を出す。
満ちざるは、これを項を挾(はさ)む太陽に灸し、
帯脉の腰より相去ること三寸、諸もろの分肉・本輸に灸す。
嘔して沃沫多く、氣下に泄(も)れる、治せず。

(意味)
病が深く脈にまで達した場合、突然倒れ、四肢の脈がみな弛緩する。
脈が満ちているところは刺鍼して血を出す。
満ちていないところは太陽経に灸し、
腰から三寸のところの分肉や経穴に灸する。
もし、白い唾液をたくさん吐き、気が下にもれれば不治の病である。


癲疾者、疾発如狂者、死不治。

(読み)
癲疾なる者は、疾の発すること狂のごとき者は、死して治せず。

(意味)
以上の各種癲疾は、「狂」のように発症する場合は
治すことのできない不治の病である。

最後の一文では、
「狂」のように発する場合には、治すことができないとある。
「狂」についての記述はこの後に続くが、説明は割愛する。


参考:
中国の宋の時代の『済生法(さいせいほう)』という書物には
「五癇(ごかん)は五畜(馬、羊、鶏、猪、牛)に応じ、
五畜は五臓に応ずる者べし」
と、癲癇の特徴ごとに、五畜、五臓(肝、心、脾 、肺、腎)を基準として
五つに分類している。

日本において、江戸時代の文献『鍼灸重宝記』では
「大人は癲といい、小児は癇という。
その証、目眩し、搐搦し、涎沫を吐き、たちまち地に倒れて人をしらず。」
癲癇について基本的な症状について述べており、
さらに、症状によって
風癇(ふうかん)、驚癇(きょうかん)、食癇(しょくかん)、飲癇(いんかん)、痰癇(たんかん)、
犬癇(けんかん)、牛癇(ぎゅうかん)、鶏癇(けいかん)、猪癇(ちょかん)、羊癇(ようかん)
と分類し、てんかんの原因や、
先の時代に述べられた五畜による名称を用いて記している。


まとめ

現代医学におけるてんかんの捉え方は、
脳や神経の異常であるとする考えに終始し、
東洋医学における考察では、
癲癇やそれに類する精神的な病は、
さまざまな臓腑の失調や病邪が原因となり得るという
あらゆる可能性を重視しているように思われる。
治療方法についても、
黄帝内経などから様々な記述がみられ、
歴代の医家の豊富な考察を認識できる。

[記事:大原]

参考文献:
『黄帝内経 素問』
『黄帝内経 霊枢』
『標準 中医内科学』
『中医弁証学』
『中医病因病機学』 東洋学術出版社
『実用中医内科学』 東洋医学国際研究財団
『基礎中医学』 燎原
『鍼灸重宝記』 医道の日本社

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