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眼瞼下垂の東洋医学解説

眼瞼下垂は、中医学では上胞下垂と呼ばれ
古典では「睢目」「侵風」「眼瞼垂緩」「瞼廃」と記載されている。
「睥倦」「胞垂」とも呼ばれ、上胞下垂と総称されている。

一般的に先天と後天の2種に分かれ、
先天性のものは両側性で遺伝、あるいは先天的発育不良によって生じ、
後天的なものは偏側性のものが多く、病後や創傷が原因である。
※ここでは後天的な眼瞼下垂についての弁証となる。



古典による眼瞼下垂

『諸病源候論』(しょびょうげんこうろん)
著者:巣元方(そうげんぽう)580年?〜650年?

"目、是腑臟血氣之精華、肝之外候、
 然則五臟六腑之血氣、皆上榮於目也。
 若血氣虛、則膚腠開而受風、風客於瞼膚之間、
 所以其皮緩縱、垂覆於目、則不能開、
 世呼為睢目、亦名侵風。"

和訓:
目はこれ臓腑血気の精華、肝の外候、
然して五蔵六腑の血気は皆目に上栄するなり。
もし血気虚すればすなわち腠理開きて風を受け、
風は瞼膚の間に客す、ゆえにその皮は緩縦し、
目を垂覆すればすなわち開くことあたわず、
世呼んで睢目となし、また侵風と名づく。


『聖済総録』(せいさいそうろく)
著者:趙佶(ちょうきつ)1082年〜 1135年

“論曰眼瞼垂緩者、以血氣不足、膚腠開疏、
  風邪客于瞼膚、其皮垂緩、下覆睛輪。”

和訓:
論じて曰わく眼瞼垂緩する者、気血不足を以て、
膚腠開疏し、風邪瞼膚を客し、その皮垂緩し、下りて睛輪を覆う。


『銀海精微』(ぎんかいせいび)
著者:孫思邈(そんしばく)581年?〜682年

"気血不至、故有渺視胞垂雀目盲障之形"

和訓:
気血が至らないと、胞垂して雀の目のように小さくしか視えない。


弁証

気虚下陥(ききょげかん)

発症は緩慢で、上眼瞼が次第に下垂の度をつよめ
軽症では瞳孔を半分覆う程度で、重症になると完全に瞳孔を覆い、
眼瞼挙上が困難なために顔を上方に向けて眉を上部にあげて見るようになる。
慢性化すると額部のしわが深くなり、
甚だしければ手で眼瞼を開けなければ物を見ることができなくなる。

治法:
補中益気(ほちゅうえきき)
飲食不節・憂思などによる脾の障害や脾胃虚弱の体質のため
脾胃の気が虚して下陥し瞼が無力となるとともに、
血の生化が不足して筋を栄養できず筋が弛緩し
結束ができなくなることにより発生する。


風邪入絡(ふうじゃにゅうらく)

突然に上眼瞼が下垂し、蟻走感、掻痒をともない、
頭痛・眼の張った感じなどの症状もでる。

治法:
養血祛風(ようけつきょふう)
風邪が経絡に侵入して筋脈を傷害したために発生する。


気滞血瘀(きたいけつお)

眼部あるいは頭額部の外傷ののちに眼瞼下垂を来す。


治法:
行気活血(ぎょうきかっけつ)
外傷によって瘀血が経絡を阻滞し瞼が弛緩したり、
筋脈が切断し気滞血瘀となって瞼を挙上できなくなって発生する。



西洋医学の見解

眼瞼下垂とは
眼瞼下垂とは、目を開いたときに
上眼瞼縁が正常の位置〔角膜(くろめ)の上方が少し隠れる高さ〕
より下がっている状態をいいます。
このことにより、上方の視野が狭く感じられたり、
外見が悪くなったりといった不都合が起こります。
原因は大きく、先天性と後天性に分けられます。

(1)先天性眼瞼下垂
出生直後からみられる眼瞼下垂で、
はじめはほとんど開瞼(瞼が開くこと)していないものの、
日を追って少しずつ開くようになります。
原因は、眼瞼挙筋(まぶたを上げる筋肉)の働きが
不良なことによるもので、片眼性と両眼性があります。
お座りができるころになると、
見えにくさをカバーしようとしてあごを上げたり、
眉毛を上げてものを見るようになりますが、
これは両方の目を使おうとしていることで、
視機能の発達の意味からはむしろ良いことといえます。

治療は手術ですが、ある程度開瞼しており、
赤ちゃんが下垂眼でも見ようとしている様子があれば、
あわてて手術をする必要はなく、視力の発達を観察しながら、
通常は3歳を過ぎてから行います。
例外的に まったく開かないか、きわめて高度で見るのがつらそう
という場合には2歳以下でも手術をしますが、
この場合 成長に伴って再び眼瞼が下がり、
再手術を必要とすることが少なくありません。
手術は主に、眼瞼挙筋を短縮する方法と、
眉毛を上げて見ているお子さんでは
その力を利用する眼瞼吊り上げ術があります。
先天性眼瞼下垂は、時に視力の発達に影響しますので、
一度は早期に眼科を受診し、視機能評価や合併症の有無、
手術の必要性とその時期などを判断してもらうことを勧めます。

(2)後天性眼瞼下垂
後天性で最も多いのは、加齢性(老人性)眼瞼下垂です。
加齢により眼瞼挙筋と眼瞼の支持組織である
瞼板や皮膚との間の結合が緩んで起こるもので、
挙筋機能は良好なことがほとんどです。
後天性ではこのほかに、
神経麻痺(動眼神経麻痺や重症筋無力症など)や
外傷性のものなどがありますが、
これらは挙筋機能そのものが不良で、
他の眼合併症や全身合併症を伴うこともまれではありません。
また、高齢者や顔面神経麻痺後には、
眼瞼下垂と思われても実は眼瞼の皮膚だけが緩んで下がっている
眼瞼皮膚弛緩症や、前額部(おでこ)の皮膚や筋の弛緩により
眉毛が下がり眼瞼を押し下げている
眉毛下垂といった状態(偽眼瞼下垂)もあり、
真の眼瞼下垂とは区別しなければなりません。

治療は手術ですが、加齢性下垂ではゆるんだ
挙筋と周囲組織の結合を再構築するように
縫合する手技が選択され、回復が見込めます。
その他の後天性では原因疾患に対する治療を行った後、
残った下垂に対して手術を行いますが、
挙筋機能の程度により手技が異なり、
その効果にも限界があります。
偽眼瞼下垂には、皮膚の切除や眉毛の吊上げ術が行われ、
真の眼瞼下垂とは異なる対応が必要です。

(日本眼科学会H.Pより抜粋)

[記事:為沢]

参考文献:
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『中国医学の歴史』
『[標準]中医内科学』
『中医基本用語辞典』
『いかに弁証論治するか』  東洋学術出版社

『基礎中医学』
『症状による 中医診断と治療』 燎原書店

『校釈 諸病源候論』 緑書房

『景岳全書』 台聯國風出版社

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