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過眠症の東洋医学解説

睡眠障害の一つに、充分に睡眠をとっているにも関わらず
眠気を感じてしまう「過眠症(かみんしょう)」がある。
主に、夜にしっかりと寝ていても
日中に耐えきれない眠気が出てきてしまうというものである。

近年、過眠症の代表的な病気として「ナルコレプシー」が注目されている。
ナルコレプシーは過眠以外にも
・睡眠発作
(日中に耐え難いほどの眠気に襲われ、
眠ってはいけない場面でも急に眠ってしまう)
・情動性脱力発作
また、入眠時にすぐノンレム睡眠(夢を見る浅い眠り)に入るため、
・入眠時幻覚(生々しい夢を見る)
・睡眠麻痺(いわゆる金縛り)
といった症状がみられるとされている。

ナルコレプシー以外にも、
・特発性過眠症(日中に強い眠気に襲われ長時間の居眠りをする)
・反復性過眠症(睡眠時間が16〜18時間におよぶ)
・睡眠不足症候群(異常な眠気がある)
といった過眠症の種類がある。

過眠症の原因について、ナルコレプシーは
脳の視床下部にある覚醒のコントロール機能が
うまく働いていないとされている。
その他の過眠症の原因についてはよく分かっていない。

治療は、生活習慣の改善指導(体内時計のリズムを整える)を行い、
それでも改善しない場合には
服薬などによる治療が行われる。

東洋医学では過眠を「多寐(たび)」または「嗜眠(しみん)」という。

『黄帝内経 霊枢(こうていだいけい れいすう)』に、
多寐についての記述がみられる。

黄帝内経 霊枢 大惑論(第八十)より

・・・黄帝曰、人之多臥者、何気使然。
岐伯曰、此人腸胃大而皮膚湿(渋)、而分肉不解焉。
腸胃大、則衞気留久、皮膚湿、則分肉不解、其行遲。

夫衞気者、昼日常行於陽、夜行於陰。
故陽氣尽則臥、陰気尽則寤。
故腸胃大、則衞気行留久、皮膚湿、分肉不解、則行遅。
留於陰也久、其気不清、則欲瞑、故多臥矣。
其腸胃小、皮膚滑以緩、
分肉解利、衞気之留於陽也久、故少瞑焉。


読み
「黄帝曰(いわ)く、人の多く臥す者は、何の気か然(しから)しむ。
岐伯曰く、この人、腸胃大にして皮膚湿(渋)り、しかして分肉解せざればなり。
腸胃大なれば則ち衞気留まること久しく、皮膚湿(渋)れば、
則ち分肉解せず、その行くこと遲し。

それ衞気なる者は、昼日常に陽を行き、夜陰を行く。
ゆえに陽気尽くれば則ち臥し、陰気尽くれば則ち寤(さ)む。
故に腸胃大なれば、則ち衞気行きて留まること久しく、
皮膚湿(渋)り、分肉解せざれば、則ち行くこと遅し。
陰に留まるや久しく、その気清からざれば、則ち瞑せんと欲す、
故に臥すこと多し。
その腸胃小さく、皮膚滑らかにして以て緩やかに、分肉解利すれば、
衞気の陽に留まるや久し、故に瞑すること少なし。」

意味は以下のようになる。

「過眠になるのは、何が原因なのか?」
答えて
「胃腸が大きくなれば、皮膚に湿気が粗く渋り、肌肉が滑らかでないからです」
胃腸が大きくなると、衛気(えき:人が活動している間、体表を循っている気)が
長く体内に留まることになり、
皮膚が渋ると肌肉が滑らかでなくなって衛気の運行が遅く緩やかになります。

衛気とは、日中は体表を循環し、夜は体内を循環するものです。
体表の衛気が尽きれば眠くなり、陰分の衛気が尽きれば目が醒めます。
そのため、胃腸が大きくなれば、衛気は留まる時間が長くなり、
皮膚が粗く渋り、肌肉が滑らかでなくなるのでその運行も遅くなります。」
体内に長く気が留まると人が活動するための清いエネルギーにはならず、
そのため目を閉じたくなり眠たくなってくるのです。
逆に胃腸が小さければ、皮膚や肌肉はしっかりとして滑らかであるため、
衛気は体表を循環し、眠気が起こりにくくなるのです。」
となる。

ここでは、胃腸、すなわち消化器系や、
体表をめぐる気(衛気)がしっかりと作用しているかどうかが
眠気と大きく関わると述べられている。

さらに、李東垣(りとうえん)の『脾胃論(ひいろん)』肺之脾胃虚論では
「脾胃の虚は怠惰嗜臥す」とあり、
五臓のうちの、「脾」の弱りが過眠と関係していることを示した。
これは、上述の『黄帝内経 霊枢』 大惑論篇の記述に合致する。

ちなみに、この「脾」とは、
西洋医学的でいう「脾臓」とイコールではなく、
胃に入った飲食物を消化・吸収する機能全体と大きく関連した、
それらの一連のはたらきを指すようである。

また、霊枢 口問篇(第二十八)では

・・・
陽気尽、陰気盛、則目瞑。
陰気尽、而陽氣盛、則寤矣。・・・


読み
「陽気尽き、陰気盛んなれば、則ち目瞑す。
陰気尽き、陽気盛んなれば、則ち寤む。」

意味はとしては
「陽気が尽きて(体表から体内に入り)、
 陰気が(体表で)盛んになると、眠るようになる。
 陰気が尽きて(体表から体内に入り)、
 陽気が(体表で)盛んになると、目が醒める。」
となり、
陽気が体表で作用する場合には覚醒し、
陽気が体内にあって陰気が体表にある場合には
眠くなると記されている。

さらに『傷寒論』の少陰病篇では
少陰之為病、脈微細、但欲寐也。
「少陰の病為る、脈微細にして、ただ寐(いね)んと欲するなり。」

と、少陰病(しょういんびょう)と呼ばれる病では脈力が弱まり、
寝ることを欲する(=過眠になる)という記述がみられる。
少陰病とは、主には、精力や気力が衰退し、
身体を温める「陽気(ようき)」が大きく不足する病である。

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多寐の原因

歴代の医家の記述から、多寐の原因は、多くは
脾虚湿盛(ひきょしっせい」)、「陽気不足(ようきぶそく」)
によるとされている。
それらを以下に解説していく。

(1)脾虚湿盛(湿邪困脾(しつじゃこんひ)などともいう)

脾気の不足
飲食物を消化し体内のエネルギーとする、消化器系統の力が弱ることをいう。
飲食の不摂生などの他に、強いストレスなども関係しやすい。

痰湿が体内に留まる
飲食の不摂生、過食、
脂っこい食事や甘い物などを好んで食すなどで、
胃腸の働きが弱ってくると
食した内容物を身体が処理しきれなくなり負担となって
あらゆる不調を引き起こすようになる。
この、不調を引き起こす、飲食による湿気を「内湿(ないしつ)」という。

(2)陽気不足

人が活動するための力が弱まることをいう。
顔色が淡白、元気がない、疲れやすい、無力感の他に、
寒がる、四肢の冷えなどの冷えの症状もみられる。

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治療方法

多寐の治療は、その原因がどれかを考察し、
脾気の不足に対しては健脾(けんぴ=消化力を上げる)など、
湿邪の停滞に対しては祛湿(きょしつ=湿を取り除く)など、
陽気の不足に対しては、どの臓腑が陽気を失調しているのかをさらに考察して
たとえば温腎(おんじん=五臓のうちの腎を温める)などを治法と定める。

経過が長びき症状が複雑な場合はこれらを複合的に行うなど
臨機応変な対応が必要となる。

(1)脾虚湿盛
→治法:燥湿(そうしつ)、健脾(けんぴ)、醒神(かくしん)

燥湿(そうしつ)とは湿を乾かすことをいう。
醒神(かくしん)とは、精神を覚醒させるという意味で、
湿濁が処理され脾がしっかりと働くようになれば精神は爽快になる。
湿邪には重濁性(じゅうだくせい)や粘滞性(ねんたいせい)があり、
そのような性質をもつ湿邪に犯されると、
肉体面においては身体が重く感じられ、
精神面においては思考が鈍るといった影響を受けるためである。

(2)陽気不足
→治法:益気温陽(えっきおんよう)
気力を補い、陽気を高める。
方剤においては、五臓の脾や腎の陽気を高めるものが多くみられる。

[記事]大原
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参考文献
『黄帝内経 霊枢』
『中国傷寒論解説』東洋学術出版社
『実用中医内科学』東洋医学国際研究財団
『基礎中医学』燎原
『中医臨床のための方剤学』神戸中医学研究所
『脾胃論』人民衛生出版社
『傷寒論真髄』績文社
『生理学』東洋療法学校協会

参考サイト
 日本睡眠学会ホームページ http://jssr.jp/data/kiso.html
 その他、睡眠に関するサイト多数

http://nurse-web.jp/josei/hypersomnia/
https://fuminners.jp/newsranking/6495/
http://anminryoku-up.com/what-is-narcolepsy.html

 

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