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嗄声(させい)の東洋医学解説


嗄声(させい:声のかすれ・しわがれ声)
女性であっても男性の様な声になったり、
かぜを引いた後から声がおかしい、
カラオケや講義で喉を酷使すると声が出ないetc.
俗に”かれ声””しわがれ声”と言われる症状を
医学的には「嗄声」と言う。


◎東洋医学における嗄声

◉概要
現代の東洋医学では
音声嘶啞(おんせいせいあ)、失音と表現し、
虚実・陰陽・表裏・寒熱の見極めが大切であると考えている。

◉古典に見る嗄声
『黄帝内経 素問(こうていだいけい そもん)』
宣明五気篇(せんめいごきへん)には

「五邪所乱。邪入於陽則狂。
・・・・搏陰則為瘖。・・・」

(「五邪が乱れる発病する。邪が陽に入ると狂となる。
・・・邪が陰に入り打ちかかると声が出なくなる。・・・。」)
「瘖(おん)」と言う言葉で記されており、
ここが最初の出典と考えられている。

『黄帝内経 霊枢(こうていだいけい れいすう)』
憂恚無言篇(ゆういむごんへん)には

「人卒然憂恚言無音者、何道之塞、何気出行、使音不彰。・・・」

(「人は突然の憂鬱や怒りで声が出なくなり、
それはどこの道が塞がるのか。
発生が不明瞭になる原因を知りたい。」)

と、この篇で発音器官の機能が説明されていく。

巣 元方(そう げんぽう)著の
『諸病源候論(しょびょうげんこうろん)』には

「喉嚨者、気之所以上下也。
会厭者音声之戸、舌者声之機、唇者声之扇。
風寒客於会厭之間、故卒然無音。
皆由風邪所傷。故謂風失音不語。」

(「喉は呼吸の気が出入りする道であり、
会厭(ええん:喉頭蓋)は音声の発生するところであり、
舌は音声の発生させる運動であり、
唇は音声の通る扉である。
風寒邪が会厭に入れば、これらの機能が阻害され、
突然声が出なくなる。
これは風邪が傷するところのものであり、
風で失音して語らずの症候である。」)
とし、風邪の影響を記している。

張景岳(ちょうけいがく:張介賓(ちょうかいひん)とも言い、明代の医家)著の
『景岳全書(けいがくぜんしょ)』には

「喑啞之病、当知虚実。
実者、其病在標、因窮閉而喑也。
虚者、其病在本、因内奪而喑也。」

(「喑啞(おんあ:声がでにくい)の病は、虚実を知るべきである。
実はその症はは標にあって、
竅(きょう:人体にある穴を意味し、口や鼻etc.)を閉じることで起こり、
虚の場合はその症は本にあって、内が奪する(弱る)ことで喑となる」)
と記し、虚実の見極めが大切であると述べている。

また同書には

「肝邪暴逆、気閉為喑者、宜小降気湯、・・・。」

(「肝邪が暴逆し、気が竅を閉塞し喑(声が出ない)者は、
小降気湯に宜し・・・。」)
とし、肝邪が気を閉塞したことで発症することを記している。

◉現代の東洋医学(現代中医学)での原因と治療方法
古医書の記録を元に、
以下の様に体系つけられる。

風寒阻絡(ふうかんそらく)
風熱阻絡(ふうねつそらく)
気候の異常気象や、
現代で言えば冷房や暖房の風に直接当たることによって
風寒や風熱の邪が人体を侵襲し、
肺気が塞がり気血の巡りが滞り嗄声が起こる。

【症状の特徴】
・風寒:嗄声、喉の痒み、悪寒、発熱等
・風熱:嗄声、咽痛、黄色の痰、口渇等

【治法】
・風寒:疏風散寒(そふうさんかん:風寒邪を散じる。)
・風熱:疎風清熱(そふうせいねつ:風熱邪を散じる。)

肝鬱化火(かんうつかか)
悩みや心配事、イライラが続く事によって
肝の気を動かす働き
(疏泄(そせつ)といい、肝の生理作用の一つであり、
臓腑と精神活動を円滑に保つ)が
失調して気が滞り臓腑の動きが停滞したり、
肝火(かんか:過度の情緒の乱れから、肝の気が炎上した病態)して、
気が喉で塞がってしまった為に起こる。

【症状の特徴】
突然声がかすれる、胸が苦しくなる、ため息が多くなる、怒りやすくなる等

【治法】
清瀉肝火(せいしゃかんか:肝火を除き、清す。)

肺腎陰虚(はいじんいんきょ)
咽喉が呼吸の通り道ということで、
東洋医学的に呼吸に関連する肺や腎の病変が考えられる。
また肺と腎は
*五行思想(ごぎょうしそう)から
肺が金(ごん)で腎が水(すい)の母子関係が成り立つ。
外感病(がいかんびょう:上記の風寒、風熱阻絡)が長引くことで、
肺が損傷し、それが腎にまで影響し、
陰虚火旺(いんきょかおう:陰が落ちて相対的に熱の状態が強くなった)となり
嗄声を発生させたもの。
*中国の古代思想で自然界を木・火・土・金・水の5つに分類したもの。

【症状の特徴】
咳嗽、声がかすれる、体が痩せる、下半身に力が入らない等

【治法】
滋補肺腎(じほはいじん:肺と腎を補う。)

気虚血瘀(ききょけつお)
正気(せいき:人体機能の総称で抵抗力と言われる)が虚損し、
血を動かすことが出来なくなり作られた病理産物。
血瘀によって喉の経脈が阻塞(そそく:詰まる)したために発生。

【主症状】
声のかすれ、元気がない、疲れる、症状が慢性化している等

【治法】
補気・活血化瘀(ほき・かっけつかお:気を補い、血を活発にして瘀血を除く。)





◎西洋医学による嗄声

◉発声のメカニズム
”嗄声”という症状を理解するには、
先ずは声の出る仕組みを知る必要がある。

声とは、
肺から出てくる空気(呼気:こき)が、
喉頭(こうとう:のどと気管の間)にある声帯(せいたい)を
振動させる事で生じる音である。




声を出す時は、
上図【発声時】のように、
声帯が細い隙間を残すように閉じ、
ここに空気(呼気)が通るときに声帯が振動し、
それが咽喉頭部(いんこうとうぶ:のど)で共鳴して音(声)となる。
しかし、
声帯の閉じ方が不全であると振動がせず、
音(声)がかすれ、嗄声となると考えられている。

声帯を閉じる為には
・声帯自体の形状に問題がない。
・声帯の開閉を行う筋肉に問題がない。
・声帯開閉の筋肉を支配する*神経(反回神経:はんかいしんけい)に問題がない。
がたいせつである。
*支配神経といい、
特定の筋肉をうごかしたり、ある皮膚部分の感覚(熱い、痛い等)を脳に伝える。

◉原因
嗄声の原因としては
①声帯の形態変化
②声帯に異物が発生する
③声帯の支配神経の障害
の大きく3種類に分類される。

①形態変化の原因
・風邪をひいたことによるもの
これはウイルス感染により喉頭が炎症を起こし、
声帯の粘膜に充血や浮腫が起こって声帯が閉じにくくなり、
その結果嗄声が出現すると考えられている。

・過度の飲酒・喫煙によるもの
ニコチンやアルコール等の
人体にとっては有害な物質が喉頭粘膜に作用し、
粘膜が慢性的に炎症を起こしているために
嗄声となると考えられている。

・声帯ポリープによるもの
声を出すことを仕事としている方(歌手、司会者等)に多く、
常に声を出すことで声帯を振動させている状態が続くと、
声帯が炎症を繰り返し、それがポリープを形成する。
結果、ポリープがある為に、
声帯の閉鎖が出来なくなり、嗄声を発声させる。
喉頭ガンでも同じ事が言える。

②声帯に異物が発生する
食事時に、
食道ではなく気道に誤嚥(ごえん)した食物が
声帯を塞いでしまったことによって起こりる。

③支配神経の障害
脳からでた支配神経は
喉頭筋に至る迄に長い走行路をもつため、
食道ガンや大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)があることで
反回神経が障害され嗄声が発声する。

◉治療方法
ポリープや他の疾患がある場合は
直ちにそちらの治療を行う。

ただ単純に形態変化がある場合は
炎症が起こっている為、
刺激物や熱い食べ物、タバコ、飲酒を控えるようにする。
また声を出すと炎症が続くので、
大きい声を出さない、
筆談を用いて声帯を休ませるように心掛ける。
また抗炎症薬を使用することもある。

[記事]下野


[参考文献]

『中医弁証学』
『中医病因病機学』
『中医基本用語辞典』
『針灸学[臨床篇]』
『現代語訳◉黄帝内経 素問 上巻』
『現代語訳◉黄帝内経 霊枢 下巻』 東洋学術出版社

『校釈 諸病源候論』 緑書房

『基礎中医学』
『症状による中医診断と治療 下巻』 燎原書店

『鍼灸医学辞典』 医道の日本社

『ぜんぶわかる 人体解剖図』 成美堂出版

『最新 医学大事典』 医歯薬出版株式会社

『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 サイオ出版

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