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顔面神経麻痺の東洋医学解説


・顔面神経とは?

脳から出る13対の神経の内
7番目の神経です。

神経には大きく分けて
筋肉などを動かす運動神経
「あつい、冷たい、痛い、触られた」などの
感覚を感じ取る感覚神経
そして
内臓の働きや代謝、体温調節などの
無意識に生命を維持している
自律神経の3つの作用に大きく分けることができます。

顔面を支配する神経のうち、
主に筋肉などを動かす神経を顔面神経と言います。

また感覚神経の要素として
舌の前2/3の味覚をつかさどっております。

さらに自律神経の要素としては
また顔面神経は涙腺と舌下腺と顎下腺を支配しており
涙が流れたり、ヨダレが出たりするのに関わっています。


・どういう状態なのか?(病理)

何らかの原因でこの顔面神経が障害されると
顔面神経麻痺が起こる。

この内、急に発症し末梢性(脳に異常がない)で
原因がわからないものをベル麻痺という。
ベル麻痺は急性の顔面神経麻痺の約7割を占める。


・どんな人に多いのか?(疫学)


顔面神経麻痺の内、ベル麻痺の場合
頻度は10万人に15~30人/年と言われている。
発症年齢は40歳以下に多いがどの年齢にでも起こり
男女差は特に無い。
ただし、糖尿病患者や妊婦に多いようである。

ウイルスが関連していると考えられているが
未だ証明されていない。


・どんな症状が見られるのか?

もっとも多いのは顔の表情筋が動かせない
という症状である。
具体的には
「まぶたを閉じることができない」
「額のしわ寄せができない」
「口角が下がる」
「口が閉まらずよだれが垂れる」などである。

他にも顔面神経は味覚や涙腺などをつかさどるため
味覚の消失や、涙の出方の異常などが
5割程度の割合で出現する。


・治療

急性の場合、
発症後72時間以内にステロイドを使用する。
治療せずとも約6割が3ヶ月以内に完全回復するが
治療法によっては9ヶ月以内に約9割が完全回復する
ことがわかっている。
ただし再発率は10%前後と比較的高い。




東洋医学的解釈

西洋医学でいうところの顔面神経麻痺は
伝統医学では「口眼喎斜コウガンカシャ」
「口眼歪斜コウガンワイシャ」「口喎コウカ」
などが当たると考えられている。

中医基本用語辞典では
「口角が歪斜すると同時に
眼を閉じることができなるくなる病症をさす」
とある。

東洋医学の中で最も古い病理学の古典の一つと
言われる『諸病源候論(ショビョウゲンコウロン)』では
「風邪入於足陽明、手太陽之経、遇寒則筋急引頬、
故使口喎僻、
言語不正、而目不能平視。
診其脈、浮而遅者、可治。」


訳:風邪が足陽明・足太陽の経に侵入し、寒邪に再び侵入されると
筋がひきつり頬を引っ張るため、口角がゆがみ、言語がままならず
目は水平に物を見ることが出来なくなる。
脈を診て浮いて遅いものは、予後が良好である。

とあり、
足之陽明経だけでなく、手之太陽経にも
異常があったときに起こると考えられている。
どのような病態であっても
結果的に陽明経絡・太陽経絡の
異常を引き起こす。


以下、中医症状鑑別診断学による
中医学の分類である。

・外邪侵襲(ガイジャシンシュウ)
六淫の邪が陽明経に侵入することで起こる。
素体として絡脈が栄養されていないためにおこる。
風寒、風熱、風湿の区別がある。
治法は主に疏風(ソフウ)

・肝風内動(カンプウナイドウ)
怒りなどにより、肝気が上に衝き上げ、
顔面の陽明経絡を損傷したことでおこる。
外邪侵襲は中・青年に多く脈が浮脈が
肝風内動は老人に多く脈が弦脈になる傾向がある。
治法は平肝熄風(ヘイカンソクフウ)

・肝気鬱結(カンキウッケツ)
精神的な抑鬱により、肝気が滞り陽明経絡に影響する。
特徴としては女性に多く、発症前より精神的に
憂うつであるなどの特徴がある。
治法は疏肝解鬱(ソカンカイウツ)

・気血両虚(キケツリョウキョ)
生体において
気を身体の機能面、血を身体の物質面として捉えると
気虚のみ、血虚のみということは
ほとんどなく気虚の所見が血虚より強いものを気虚
血虚の所見が気虚よりも強いものを血虚という。
そのため総じて気血両虚としてまとめて扱う。

気血が虚すことにより、
顔面の肌肉を栄養できないために起こる。
治法は
気虚が強いものには補気活血(ホキカッケツ)
血虚が強いものには養血熄風(ヨウケツソクフウ)する。

・風痰(フウタン)
素体(体質)として痰飲があり、
体外の影響(外風)もしくは体内での不調(気鬱化風)により
素体の痰飲と他の要因である風が結びつき
陽明経絡を阻滞させることで起こる。
・特徴として患部にしびれや違和感があり、
ふらつきや眩暈、悪心などが起こる事が多い
治法は化痰熄風(カタンソクフウ)

以上をまとめると
外からの要因として風を中心とした外邪が
五臓では肝が重要であり、
正気の有無が治療経過において重要であると
考えられる。

口眼喎斜(顔面神経麻痺)は比較的経過の良い
疾患の一つではあるが
また古人は長年の臨床経験から
中風(現代で言う脳卒中)の前兆の一つ
としており、口眼喎斜を積極的に治療することは
積極的な予防となると考ていたようである。

[記事]盧
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参考文献
「臨床医学各論」医歯薬出版
「ジェネラリストのための内科診断リファレンス」医学書院
「黄帝内経 素問」東洋学術出版
「諸病源候論」緑書房
「中医症状鑑別診断学」中国中医薬出版

 

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