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本態性振戦の東洋医学解説



本態性振戦
「本態性」という語句ですが、
こちらは、
「原因不明であること」を意味する言葉です。
「振戦」は「ふるえ」を意味しますので、
本態性振戦は、
「原因不明のふるえ」とも言い換えられます。

では、東洋医学においては、
どのように病を捉え、
治療を行っていたのでしょうか。

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●概説(古代の中国では「ふるえ」をどのようにとらえていたか)

東洋医学では、
身体が震える状態のことを「震顫」(しんせん)といいます。

【黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)】の
「至真要大論(ししんようだいろん)」において、

諸風掉眩、皆属於肝
(諸風掉眩(しょふうとうげん)は、皆肝に属す)

とあり、
「掉」(とう)とは「震顫」、
「眩」(げん)は「めまい、ふらつき」を指します。
それらは諸々の「風」によって引き起こされ、
臓腑でいうと「肝」に関係することを表しております。

【黄帝内経素問】
著者は不明。
秦・前漢の時代(紀元前202~後8年)の作とされる。
素問は、伝説上の人物とされる黄帝(こうてい)が
岐伯(きはく)を始め幾人かの学者に日常の疑問を問うたところから
『素問』と呼ばれ、主に問答形式で記述されている。

実際に、病の原因となる「風」を昔の人はどのようにとらえていたのでしょうか。

●病の原因(「震顫」の基本的な病因はなにか)

【証治準縄】諸風門 顫振(しょふうもん せんしん)
には以下の記載があります

顫揺也振動也。筋脈約束不住而莫能任持風之象也。
(顫(せん)は揺(よう)なり。振(しん)は動(どう)なり。
筋脈(きんみゃく)の約束(やくそく)し住(じゅう)せずして、
任(にん)持(じ)することあたわざるは、風の象なり。)

上記のように
「(内)風」(火が風を引き起こすように、体の中に風が舞い上がる状態)
が生じることによって、
「震顫」が発症するというのが基本的な病因とされています。

【証治準縄】(しょうちじゅんじょう)
著:王肯堂(おうこうどう/1549年〜1613年)
「証治準縄」は六つの著作からなる書物で、
「雑病証治準縄」「雑病証治類法」「傷寒証治準縄」
「瘍科証治準縄」「女科病証治準縄」「幼科証治準縄」 に分かれる。

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東洋医学には先ほどの「内風」の症状を治めるための診立てと治め方として、
以下の考え方がされています。

●東洋医学における本態性振戦の分類と治療法
(振戦の原因をどのように考察し治療していたか)

肝風内動(かんぷうないどう)
感情の乱れによって、
常にイライラしやすかったりすると、
肝経の気がうまく流れなくなり、渋滞しているような状態となります。
気が停滞すると、その部分に熱がこもりやすくなり、
その結果、こもった熱は「炎上」し、身体の中の潤いを枯らし、
またその熱で、身体の中に風を巻き起こすことで、震えが発症します。
これらの仕組みで起こる風を「肝風」といいます。

治法:平肝熄風(へいかんそくふう・肝気を鎮め風をやませる)


虚風内動(きょふうないどう)


強い発熱を伴うような風邪や、感染症にかかると、
身体の潤いを消耗してしまい、
その結果、身体の中の熱を制御できなくなることで、
内風が起こり、震えの症状が出現します。
もともと、その潤いが不足している体質の人を陰虚の状態といいますが、
熱邪(ネツジャ:熱の性質をもった体の外部から侵入してくる邪)にさらされなくても、
そのような人は内風の状態に転化しやすくなります。
このように虚に乗じて身体の中を温める作用が暴れることで熱と化し、
その結果身体の中で風が生まれることを「虛風」といいます。

治法:育陰柔肝(いくいんじゅうかん・陰分を育み肝気を和らげる)・
熄風(そくふう・風をやませる)


血虚風動(けっきょふうどう)

大量の出血を起こした後や、慢性的な病、虚弱体質、または加齢により
気血(キケツ:体の状態を維持するための養分を含む基礎的な材料)の衰退が進み、
その中でも血が不足すると、身体の中の筋肉や血脈を栄養できなくなると、
内風(火が風を引き起こすように、体の中に風が舞い上がる状態)が生じることにより発症します。

治法:養血熄風(ようけつそくふう・血を養い風をやませる)


脾虚風動(ひきょふうどう)

五臓の一つである脾。
脾の役割として身体の中の栄養を運ぶ「運化」という作用があります。
その「運化」がうまく働かなくなると、
こちらも五臓の一つである肝に栄養が行き届かず、
その結果、肝の陽気が制御できないと肝風が発生します。
また、脾の役割である体内の湿気を調整する作用も働かなくなると、
文房具の液体ノリのように、最初は液体状でも、
時間が経つと固まってしまうというような状態となります。
そのような状態を「痰」といい、
「痰」と「肝風」が結びつくと、「風痰」となって
粘りの性質を持った痰を上に衝き上げることで、身体に震えを起こします。

治法:健脾定風(けんぴていふう・脾を健やかにし風をしずめる

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西洋医学における見解

症状の原因はまだよく分かってはいませんが、
精神的な緊張で増悪したり、
興奮した際に働く交感神経と関係しているといわれています。

このような症状に対しての西洋医学における治療法として、
どのようなものがあるのでしょう。
結論からいうと、
根治的治療法はなく、
対症療法が中心となります。

主な治療法として
以下のものが挙げられます。

・薬物療法
→交感神経遮断薬、抗てんかん薬、非選択的βアドレナリン受容体阻害薬などを
選択できます。
副作用が強くでる場合や、
高齢者などで心不全や認知機能障害などの合併症などにより
使用できない場合があります。

・ボツリヌス毒素療法
→四肢、発声、口蓋や頭部など局所に限局した症状には、
こちらの治療法が適応となります。
また、薬物療法が無効で日常生活動作に障害を呈する
中等度から高度の障害を示す場合や、
交感神経遮断薬、抗てんかん薬などの副作用により
使用出来ない場合も適応となります。

・手術療法
→視床破壊術、視床電極刺激術、ガンマナイフによる破壊術などがあります。
出血、梗塞などの手術自体による合併症や挿入された電極の脱落や機器の故障などを考慮する必要があります。
薬物療法やボツリヌス毒素療法などの治療効果が不充分で、
振戦のため日常生活や社会生活の維持が困難な場合は推奨されます。
手術合併症などを考慮して、
振戦などのため仕事や日常生活の遂行に支障を生じており、
かつ長期の効果が期待される若年者が良い適応となります。
高齢者の場合には、単に日常生活への影響だけではなく、
手術合併症と手術で得られる効果を症例ごとに検討する必要があります。

つづいて、
発症者の特徴をみていきましょう。

高齢者に多く見られ、
40歳以上では4%、
65歳以上では5~14%以上で症状がみられたと報告されています。
ただ、高齢者に多い一方、若年発症することもあり、
発症者の年齢の分布は20歳代と60歳代に分けられます。
また、同症状では、家族歴が見られることが多く、
そのことから遺伝的素因の関与が疑われるも、
一卵性双生児では必ずしも同等な発症が確認されていないため、
「遺伝性疾患」であるとの確定はされていません。

一般的には、聞き慣れない疾患ですが、
本症状でお悩みの方が多くいらっしゃり、
また生活に不便を感じていらっしゃる状況が多いように思います。
病院へ行き、「根本的な治療はない」という説明を受けられたとしても、
西洋医学の対処法とはまた異なる角度から
病の原因を紐解く事が出来ますので、お悩みの方は一度ご相談下さい。

記事:新川
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参考文献:
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『[標準]中医内科学』
『中医基本用語辞典』
『現代語訳◉黄帝内経 素問 下巻』
『現代語訳◉黄帝内経 霊枢 上巻』東洋学術出版社

『基礎中医学』
『症状による 中医診断と治療』 燎原書店
『鍼灸医学辞典』 医道の日本社

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