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癌(がん,ガン)の東洋医学解説2/3

癌(がん,ガン)の東洋医学解説
   
                                      〜 も く じ 〜

                     1.中医学での、がんの認識の始まりは?
                     2.癥瘕、積聚とは?
                     3.「積」と「聚」も区別されるの?
                     4.積聚はどのようにしてできるの?
                     5.身体の各器官における積聚って?
                     6.積聚の治療法は?
                     7.結び

 

1.中医学での、がんの認識の始まりは?

紀元前17世紀頃から始まったとされる
中国の殷(いん)の時代には、
亀の甲羅や動物の骨に文字を記録する
「甲骨文字」と呼ばれる文字が使われていたそうです。
これは、現在確認することのできる最古の漢字だといわれています。

その甲骨文字の中に、
心病、頭痛、胃腸病などの内科疾患についての記載に加え、
「瘤(りゅう)」という文字が書かれていたとされており、
これは「滞留(たいりゅう)する」、すなわち、
「固まりの疾患」という意味で用いられていたようです。

この「瘤」は、
現代の「がん」や「腫瘍」に相当するとされており、
やがてこれは、「癥瘕(ちょうか)」や
「積聚(しゃくじゅ、せきしゅう、せきじゅ、など)」
といった概念で後世へ伝えられていきます。

2.癥瘕、積聚とは?

「癥瘕」と「積聚」は、簡単に言うと、
腹内にしこりのような塊がみられる疾患をいいます。

紀元前770年から始まったとされる中国の春秋戦国時代に、
古典医学の大作である「黄帝内経(こうていだいけい)」(素問・霊枢)が
完成しました。
以後、古典において、「癥瘕」や「積聚」についての記載が
みられるようになります。

(1)癥瘕(ちょうか)
癥瘕とは、腹部における、以下の病症を指します。
・硬結(こうけつ:硬いしこりのようなもの)があらわれる。
・脹満(ちょうまん:腹部にガスや液体がたまって膨張した状態)や、
 疼痛(とうつう:うずくような痛み)を伴うこともある。

癥瘕の特徴は、以下のようになります。

・硬結は下腹部に多くあらわれる。
・出産後または月経期間中に、身体が何らかの影響で冷えてしまい、
 血液の流れがスムーズにいかず滞ってしまうことで発生しやすい。
・感情の大きな変化から生じた気の流れの変調がもとになり、
 内臓の働きが低下することで、気の循環と血液の循環のバランスが崩れて
 発生する場合もある。

また、以下①②のように、癥瘕を区別することもあります。
①「気滞癥瘕(きたいちょうか)」・・・気の停滞が原因の癥瘕
②「血瘀癥瘕(けつおちょうか)」・・・血の停滞が原因の癥瘕

(2)積聚(しゃくじゅ、せきしゅう、せきじゅなど)
積聚の病症は、癥瘕と同様に、
腹部に硬結ができ、脹満や疼痛を伴うことがあるという病症を指します。
その原因などの詳細については後述していますので、
下記を参照してください。

(3)癥瘕と積聚における、共通点と相違点

①共通点
どちらも腹内にしこりや硬結などの塊がみられ、
脹満・疼痛を伴うことがあるという点で共通しています。

②相違点
癥瘕:婦人科疾患に関係することが多い。
   発症する場所は、下焦(げしょう:腹部における臍(へそ)以下の範囲)
         に多い。
積聚:脾胃の弱りに関係することが多い。
   発症する場所は、中焦(ちゅうしょう:腹部における横隔膜から
         臍(へそ) までの範囲)に多い。

ただし、実際には、癥瘕と積聚は一緒にあらわれることが多いので、
厳密に両者を区別をせずに、
「癥瘕積聚(ちょうかしゃくじゅ)」、または、
単に「積聚」などとよぶことが多いようです。

3.「積」と「聚」も区別されるの?

「積聚」という言葉は、
「積」と「聚」の二つの漢字から成り立っています。
この二つの漢字にもそれぞれ意味があり、
学問上は区別されているようです。

「黄帝内経」の後に編纂された「難経」という古典の中に、
「積」と「聚」の区別について記載がみられます。

・難経 五十五難
積は五蔵の生ずる所、聚は六府の成す所なり。
積は陰気なり、其の始めて発する常の処有り、
其の部を離れず、上下終始する所あり、左右窮る処の所あり。
聚は陽気なり、其の始めて発するに根本なし、
上下留止する所なし、其の痛み、常の処なし、之を聚と謂う。

まとめると、以下のようになります。

「積」と「聚」の区別
・「積」は、五臓の陰気が滞り積もって出来たものである。
・「聚」は、六腑の陽気が滞り聚(集)まって出来たものである。
・「積」は、始めに発生した場所から一定であり移動せず、
     上下の境界がきちんとしている。
・「聚」は、根が無く、浅く浮き上下左右動いて場所は一定でない。

言い換えると、
「積」は「聚」に比べて、硬い塊であり、
あまり移動せず同じ場所にじっとしているものをいいます。
反対に、「聚」は「積」に比べて、軟らかい塊であり、
移動して一定の場所に留まらないものをいいます。

分かりやすく肩凝りに例えてみると、
「積」は同じ場所にあってなかなか硬さがとれない強いコリで、
「聚」はちょっと肩を揉むと、痛い場所が変わったり、
その硬さがマシになりやすいコリといえます。
つまり、「積」の方が「聚」に比べ、
凝り固まっているようなイメージです。

ただし、実際は、「積」と「聚」は同時にみられる場合が多く、
明確な区別をしないことが多いようです。

4.積聚はどのようにしてできるの?

「黄帝内経」の霊枢 百病始生篇(ひゃくびょうししょうへん)(第六十六)では、
あらゆるの病の原因について述べられています。
積聚がどのようにしてできるのかという原因についても記載がみられます。

・霊枢 百病始生篇(第六十六)
積之始生、得寒乃生、厥乃成積也。

(読み:積の始めて生ずるや、寒を得て乃ち生じ、厥して乃ち積と成るなり。)

(訳:積の始めは、寒邪(冷え)の侵犯を受けて生じます。
         寒邪が逆行して上行し、ついに積と成ります。)

ここでは、積の原因は、身体が冷えて、その冷えが身体の下から上へ
拡がっていくことにあると述べられています。

また、次の段落(下記)では、
その冷えが胃腸に影響することで、
積聚が次第につくられていくと述べられています。

厥気生足悗、悗生脛寒、
脛寒即血脈凝濇、
血脈凝濇即寒気上入於腸胃、
入於腸胃即䐜腸、
䐜腸則腸外之汁沫迫聚不得散、日以成積。

(読み:厥気足悗を生じ、悗生すれば脛寒え、
            脛寒ゆれば則ち血脈凝濇し、
            血脈凝濇すれば則ち寒気上りて腸胃に入り、
            腸胃に入れば則ち䐜腸(しんちょう)し、
            䐜腸すれば則ち腸外の汁沫迫聚して散ずるを得ず、
            日々以て積となす。)

(訳:寒邪に由来する厥逆の気は、足部の痛み・凝りと運動障害ともたらし、
         次に脛部の冷えに発展し、その後、血脈の渋滞凝結をもたらします。
         血脈が渋滞凝結すると、寒気は上部へ進み腸胃を犯します。
         腸胃(ちょうい)が寒気を受けると
         腸満(腹部が以上にふくれた状態をいい、腹膜炎や腹水などによる)
         が発生します。
         すると腸胃の外にある汁沫
        (じゅうまつ:人体の中の正常な水分の総称、津液(しんえき)を指す)
         を凝集させて消散させなくします。
         このように日一日と進行して、しだいに積を形成するのです。)

この後の段落では、
暴飲暴食による胃腸の負担や、
感情の大きな変化による気の流れの変調によっても
積はつくられていくという内容が続きます。

5.身体の各器官における積聚って?

古典では、次のように、身体の各器官における
積聚について述べられています。
これは、現代における
各器官のがんについての記載にあたるといえます。

(1)「食道がん」についての内容とみられる記載

・霊枢 上膈篇(じょうかくへん) 第六十八 
喜怒不適、食飲不節、寒温不時、則寒汁流於腸中、
流於腸中則虫寒、虫寒則積聚、

(読み:喜怒適わず、食飲節ならず、寒温時なさざれば、
    則ち寒汁 腸中に流れ、
    腸中に流るれば則ち虫寒え、虫寒ゆれば則ち積聚し、)

(訳:喜怒などの感情が抑圧されてのびやかでなく、
   飲食が不節制であり、寒暑などの気候に適応できないと、
   脾胃の消化運送機能に異常をきたし、寒湿の邪を腸中に流注させます。
   腸中に寒湿が流注すると、集まり積もって散らず(積聚)、

守於下管、則腸胃充隔、衛気不営、邪気居之。

(読み:下管を守れば、則ち腸胃郭に充ち、衛気営わず、邪気ここに居る)

(訳:下脘(げかん:胃の下部、現代でいう胃の幽門に相当する)に
   巣くいます(集まって固まり、塞がります)。)
   これによって腸胃が塞がれ、陽気が流通せず温めることができなくなり、
   邪気もそこに繁留するようになります。)

人食則虫上食、虫上食則下管虚、
下管虚則邪気勝之、積聚以留、
留則癰成、癰成則下管約。

(読み:人食らえば則ち虫上りて食らわんとし、
    虫上りて食らえば則ち下管虚し、
    下管虚すれば則ち邪気これに勝ち、積聚して以て留まり、
    留まれば則ち癰成り、癰成れば則ち下管約す。)

(訳:人が飲食するとき、虫は飲食の気味を感じて、上がって食べようとします。
   そのとき下脘は空虚になり、邪気がこの虚に乗じて侵入し、
   内部に集まり積もります。(積聚)
   それが続くと内癰(ないよう:体内の腫れもの)を形成します。)

(2)「胃がん」についての内容とみられる記載

中国の北宋の時代に書かれたとされる
「金匱要略」(きんきようりゃく)の
嘔吐噦下痢病篇(おうとえつげりびょうへん)では、
以下のように、胃がんについての記載がみられるとされています。

・金匱要略 嘔吐噦下痢病篇 (胃がんについて)
朝食暮吐、暮食朝吐、宿穀不化、名曰胃反。

(読み:朝に食すれば暮には吐し、暮に食すれば朝に吐す、
    宿穀化せず、名づけて胃反と曰う)

(訳:朝食べたものを夜に吐き、夜食べたものを朝に吐いて、
   食べたものが消化されないものを、胃反(いはん)と呼ぶ)

また、難経では、
各臟ごとの積の名称や特徴などについて述べられています。
名称の記載についてのみ、以下、抜粋します。

・難経 第五十六難
肝の積、名づけて肥気と曰う、・・・
心の積、名づけて伏梁と曰う、・・・
脾の積、名づけて痞気と曰う、・・・
肺の積、名づけて息賁と曰う、・・・
腎の積、名づけて賁豚と曰う、・・・

6.積聚の治療法は?

積聚の治療方法についても、各種文献に記載がみられます。

中国の明の時代に書かれた「医宗必読」(いそうひつどく)の積聚篇では、
積聚の状態から、初期・中期・末期の三つの段階に分けて把握して、
治療方法を下記①〜③のように、
大まかに区別することが有効であると述べられているようです。

・「医宗必読」 積聚篇

①初期:
初期は、外界から受ける力に逆らったり耐えたりする力(正気)が多く、
身体の働きを阻害する病気の原因(邪気)は比較的少なく弱いので、
邪気を除く方法を施すことができる。

川の流れに例えると、川にある岩や石が、
その川の水の流れを阻害しているとします。

その岩や石を、川の流れで取り除くためには、多くの水を必要とします。
ですが、川の水が多くてその流れがまだまだしっかりしていれば、
多少水が減ったとしても問題なく川は流れます。

すなわち、川の水の流れがしっかりしていれば、
それほど多くない岩や石を取り除くために
多少の水を消費しても大丈夫である、ということが述べられています。

②中期:
邪気も深く侵入し、抵抗力・防御能(正気)も弱まっているので、
邪気を取り除きながら、同時に抵抗力・防御能(正気)を増やす
治療を施すべきである。

こちらも同じく川の流れに例えると、
川を流れる水の量が少なくなり、
川の中の岩や石も多く溜まってきた段階です。

岩や石を取り除くには、流すために水を消費するだけでなく、
川の流れをしっかりさせるために水を増やしながら、
岩や石を取り除くことが必要である、
ということが述べられています。

③末期:
邪気が思うまま振る舞い、抵抗力・防御能(正気)は弱まっているので、
補法を施すべきである。

川の水の量が減ってしまい、川の流れがほとんどみられない段階です。
岩や石が多く、川としての水の流れを取り戻すことが先決であり、
まずは水の量を増やすことが必要である、
ということが述べられています。

以下、参考までに、素問では
婦人が妊娠している場合について述べられています。

・素問 六元正紀大論篇(第七十一)
 ・・・大積大聚、其可犯也。衰其太犯而止。過者死。

(読み:大積・大聚(たいせき・たいじゅ)は、それ犯すべきなり。
    衰えること大半なれば止(や)む。過ぐる者は死す。)

(訳:(婦人が懐妊している場合に)腹内に気の鬱積や
     しこり(積聚)の病がある場合に、
   それを除去するために有毒の薬を使用しても構いません。
   ただし慎重に行い、病が半ば以上除去されれば、
   即座に投与をやめなければいけません。
   薬を使い過ぎれば、死亡させかねません。)

さらに、江戸時代に書かれた日本の書物「鍼灸重宝記」には、
積に対する、鍼での治療方法の重要点が述べられています。

・鍼灸重宝記
腹痛するときはみだりに痛む所に刺すべからず、
まず積ある所をよくおしやわらげ、
其の後痛む処より一、二寸ばかりわきに鍼すべし、
もし痛みつよきときは、むざと痛みの上に刺せばかえって痛み、
また人を害すこと多し、
積にかまわず、わきをやわらげて気を快くするときはおのずから治す。

7.結び

現代のがんに相当するとされる「癥瘕」「積聚」は、
中医学の絶えず長く続いてきた歴史において、
あらゆる文献に記載がみられることから、
歴代の医家による臨床を通して
長く論じられてきたことが分かります。

中国の殷の時代の「瘤」の文字を起源とするその内容は、
現代までに、どのようにしてできるのかという原因についてや
治療方法についてまで、広く言及されています。

その考え方は、長い歴史を経ても一貫性があることから、
現代のがんに対しても有効であるとする見方が
少なくないようです。

[記事]大原

参考文献
『黄帝内経 素問』
『黄帝内経 霊枢』
『中医内科学』 
『症例から学ぶ中医婦人科』 
『中医学基本用語辞典』 東洋学術出版社
『鍼灸医学事典』 
『難経の研究』 医道の日本社
『基礎中医学』 燎原
『鍼灸医学における実践から理論へ パート4』 たにぐち書店



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