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歯ぎしりの東洋医学解説


寝てる間や、
ふとした瞬間に上下の歯を擦り合わせ、
ぎしぎし音とをさせる歯ぎしり。
長く続くと、
歯がすり減るだけでなく、
顎関節症を招いたり、
めまいや耳鳴り等身体の不調を引き起こす
ともいわれています。



◎東洋医学における歯ぎしり

◉概要
現代の東洋医学では噛歯(ごうし)と言うが、
時代によって齘歯(かいし)と記している。

◉古典に見る歯ぎしり
歴代の医家はどの様に、
歯ぎしりと言うものを考えていたのか。
古典から見てみましょう。

・張 仲景(ちょう ちゅうけい)『*金匱要略(きんきようりゃく)』

「痙為病、胸満口噤、臥不着席、脚攣急、必齘歯。」

(「痙の病は、胸満して口噤し、
後弓反張して脚攣急し、必ず齘歯する。」)

*実際には『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』であるが、
現在は『傷寒論』と『金匱要略』に分けられている。


・巣 元方(そう げんぽう)『諸病源候論(しょびょうげんこうろん)』

「齘歯者、是睡眠而相磨切也。
是由血気虚、風邪客於牙車筋脈之間、
故因睡眠気息喘而邪動、引其筋脈、
故上下歯相磨切有声、謂之齘歯。」

(「齘歯(歯ぎしり)は睡眠中に、
上下の歯を摩擦し合わせることである。
これは血気が虚弱で、そこに風邪が顎を侵したもので、
その為睡眠中の呼吸時に風邪が動き、
筋脈を牽引するので、上下の歯が摩擦し合うのである。」)


・葉天士(ようてんし)『外感温熱篇(がいかんうんねつへん)』

「若切牙噛歯者、湿熱化風、痙病。」

(「もし咬牙噛歯するならば、湿熱化風の痙病である。」)


・王孟英(おうもうえい)『温熱経緯(うんねつけいい)』

「雑証 噛歯為血虚。疫証見之、為肝热。」

(「雑証の噛歯は血虚であり、疫証を見るのは肝熱である。」)



◉現代の東洋医学(現代中医学)での原因と治療方法

・外感風寒証(がいかんふうかんしょう)
気候の異常気象や、
現代で言えば冷房風に直接当たることによって
風寒の邪と正気(免疫力)が交争し発症する。

【症状の特徴】
歯ぎしり、悪寒、発熱、頭痛、身体痛等

【治法】
疏風散寒(そふうさんかん:風寒邪を散じる。)


・胃火上炎(いかじょうえん)
普段から辛いものや脂っこいものばかり食べて発症したものや、
熱病が胃に伝わったもの、
情緒の乱れから肝火(かんか・過度の情緒の乱れから、肝の気が炎上した病態)
して、その火が胃を犯したこ病態。
陽明経が歯中に入り巡るので、
火熱が経脈に充盛となり発症する。

【症状の特徴】
睡眠中の噛ぎしり、口臭、口渇、冷飲を好む等

【治法】
清胃瀉火(せいいしゃか:胃の亢進を抑え、胃の火(熱)を冷ます)


・食滞・蛔虫(しょくたい・かいちゅう)
共に小児に診られると考えている。
食滞は、
食べ過ぎや腐った物を食したが為に臓腑が傷つき、
その結果 飲食物が停滞して気滞を生じたもの。
また蛔虫は、
上記に似ているが飲食から寄生虫に感染し発症する。

【症状の特徴】
食滞:夜間の歯ぎしり、食欲不振、消化不良、大便の不調等
蛔虫:夜間の歯ぎしり、臍周囲の疼痛、異食症、顔色が黄色くなる等

【治法】
食滞:消食導滞(しょうしょうくどうたい:食物の滞りを消しさる。)
蛔虫:駆虫・健脾(くちゅう・けんぴ:寄生虫の駆除、及び脾の弱りを補う。)


・気血両虚(きけつりょうきょ)
節度のない食生活、睡眠不足、
情志の失調(過度な感情の起伏)や病の慢性化、
または大出血により気と血が消耗して
五臓六腑の機能が衰退し、症状が生じたもの。

【症状の特徴】
歯ぎしり・顔色が悪い・息切れ・食欲不振等

【治法】
気血双補(きけつそうほ:気と血を共に補う。)


・熱極生風(ねっきょくせいふう)
急性の熱病に罹患したときに発症するもので、
小児に多く診られる。
症状の特徴は、
邪が侵入した臓腑により異なる。

【症状の特徴】
・肝経熱盛:強い歯ぎしり、筋肉のひきつり、めまい、意識障害等
・陽明熱盛:強い歯ぎしり、発熱、口渇、発汗等

【治法】
・肝経熱盛:平肝熄風
(へいかんそくふう:肝の気を抑え、体内で生まれた風を抑える。)
・陽明熱盛:通腑瀉熱(つうふしゃねつ:陽明胃を通して、熱を瀉す。)


・虚風内動(きょふうないどう)
慢性病や熱病が長く続くことで
腎陰が虚して、肝陽が亢進して内風を生じ、
その結果発症したもの。

【症状の特徴】
・歯ぎしり、目のかすみ、頭がふらつく、動悸等

【治法】
柔肝滋腎(じゅうかんじじん:肝をやわらげ、腎をやしなう。)



◎西洋医学における歯ぎしり

◉概要
現在、日本人の7割近くが歯ぎしりを経験しており、
ただ多くの方がその症状を自覚していないというデータがあるようです。
歯ぎしりをすることで、
歯の詰め物がすり減ったり、
歯本体が割れたり、
歯が揺れることで歯を根元ごと失うこともある。

歯ぎしり自体は大きく3種類に分けられている。
①グライディング
歯ぎしりの中で最も多いもので、
本人もそうだが、周りの人間が気づくことが多い。

症状としては、
上下の歯を噛んだ状態で
横に滑らせこする動きのもので、
歯ぎしりの中では最も歯への影響が大きく、
歯自体がすり減り平らになっているという特徴がある。

②クレンチング
上下の歯を強くぐっと噛むこと。
力仕事やスポーツ時に食いしばるのと同じ様に、
夜間睡眠時に力が入っており、
特に音がしないため自覚していないことが多い。

③タッピング
寒く震えてる時に歯がカチカチなるのと
同じような状態で、
歯を小刻みに噛み合わせるタイプ。

◉歯ぎしりの原因
・ストレスによるもの
ストレスにより口周囲の筋緊張が生じ、
その結果歯ぎしりが起こる。

・歯並びによるもの
歯並びが悪いことによって起こるもの。
加齢と共に筋肉、骨が固くなり、
歯並びの悪さを補うことが出来なくなり生じる。

・噛みしめ癖によるもの
普段から無意識に噛みしめ癖があると、
寝ている間にも出てしまうことがあるとされている。

・顎関節の変形によるもの
加齢と共に顎関節(がくかんせつ:あごの骨)がすり減り、
それが原因となり歯の形も変形し発症したもの。

◉歯ぎしりにより起こる体調不良

●歯への影響
・歯が削れて短くなる
・歯痛
・詰めものの破損
・歯の破損(割れる、折れる)

●骨への影響
・骨がコブのように隆起する
・歯を支える骨が痩せてくる

●全身への影響
・顎関節や筋肉の痛み
・肩こり
・頭痛
・エラが張ってくる

◉治療方法

・ボトックス注射
過緊張により柔軟性を失った筋肉に入れ、
過緊張を取り除く場合に用いる。

・マッサージ
緊張している筋肉の凝りをほぐし、
口周囲をリラックスさせて症状を取りのぞく。

・マウスピース
マウスピースを入れることで
歯や詰め物を守るときに用いる。
また歯ぎしり専用マウスピースもあり、
歯科医院にて頼むことも出来るようである。

・噛み合わせの矯正
正しい噛み合わせに矯正し、歯ぎしりを軽減させる。

[記事]下野


[参考文献]
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『中医基本用語辞典』
『金匱要略解説』 東洋学術出版社

『校釈 諸病源候論』 緑書房

『基礎中医学』
『症状による 中医診断と治療』 燎原書店

『鍼灸医学辞典』 医道の日本社

『中医臨床のための温病条弁解説』
『最新 医学大事典』 医歯薬出版株式会社

『温熱経緯』 人民衛生出版社

『葉天士医学全書』 山西科学技術出版社

『歯ぎしりQ&A』 医学情報社

 

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