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神戸三宮院豊中院

自閉症の東洋医学解説

中医学の視点から自閉症を説明するにあたり
特徴的な症状である精神発達の遅延・言語発達の遅延と
合併して起こることの多い知的障害と癲癇(てんかん)などの症状から考察し、

1.五志(ごし)と五臓(ごぞう)の関係
2.五遅五軟(ごちごなん)
3.五硬(ごこう)

上記の3つのテーマにわけて考えます。


1.五志(ごし)と五臓(ごぞう)の関係

医学では感情を七情と呼ばれる
喜・怒・憂・思・悲・恐・驚
の七種類の情志(感情)の変動に大別し
長い臨床の歴史の中で
それぞれの情志が五臓六腑に
与える影響をまとめ特につながりが深いものを
「五志(ごし)」として挙げています。

五志(ごし)
心は喜、肝は怒、肺は悲と憂、脾は思、腎は驚と恐
をそれぞれ主り、
対応する感情が過ぎれば各蔵を傷つけたり
反対に各蔵に機能の失調などがあれば
容易に感情が昂ぶってしまったり
感情を発露することが難しくなる
といった症状が現れます。

また五蔵の中でも心は
最上位にある王さまで
君主(くんしゅ)の官と呼ばれ
五蔵を統轄(とうかつ)する役割があります。
神(しん)を蔵(ぞう)するとされ、
中医学では神(しん)とは
思考・判断などの精神活動や、
視る・聞く・味わうなどの知覚活動を主ります。
そのため心は情志が発生するための
生理的な基礎とされています。

心に臟されている神が不安定になると
知覚異常(嗅覚・味覚の消失など)や
思考・判断の異常、運動の異常(顔面麻痺や言語障害)
などが起こります。

これらを踏まえて発達障害の症状を
実証(じつしょう)と虚証(きょしょう)に分けて考えてみます。

虚証と実証の説明
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中医学では疾病の発生は
正邪(せいじゃ)の闘争する過程であると捉えます。

正とは正気(せいき)と呼ばれ人体が
正常な生理活動を維持する為の能力、
負担に対する抵抗力を指し

邪(じゃ)とは一般的に外部から体を侵略しようとする
発病因子を指しますが
体の内部から発生する因子も含まれる場合もあります。

実証とは邪が強いもしくは多く
通常の正気でも耐えられない状態です。

虚証とは正気が減退し、
病に対する抵抗力が弱くなっていることで
内外から影響する邪に対して対抗できない状態です。
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実証

心脈瘀阻(しんみゃくおそ)

血液の循環がうまくいかないと
血液が凝結し固まりとなり
瘀血(おけつ)と呼ばれる病理産物が生まれます。
心脈瘀阻(しんみゃくおそ)とは瘀血が
心脈(しんみゃく)をつまらせ
気血が通じなくなる病理で
血は気の力を受けて正常に流れるため
七情の乱れから気が鬱結(うっけつ)すれば
血流が滞り血が凝結し瘀血が発生します。
瘀血が心脈を塞げば
神が働くことが出来ず
精神に障害が起こり、
その他の症状として
胸や背中の痛み、爪や唇の色が青紫色になる
などが現れます。


痰阻心竅(たんそしんきょう)
こちらは痰濁(たんだく)と呼ばれる病理産物が
心の気血が通る穴を塞ぐ病症です。
痰濁は津液(しんえき)と呼ばれる
血以外の体内の水分の停滞から発生し、
主に飲食の乱れなど胃腸に負担をかけることや、
瘀血と同じく気の鬱結から発生します。
それが心の気血の通り道を塞ぐことで
精神を混乱させたり、
ぼんやりする・ぶつぶつ独り言をいう
ひどくなると意識混濁などの症状が現れる。


虚証

心脾両虚(しんぴりょうきょ)
心は脾で作られる血をうけることで
神を治め精神を安定させています。
そのため脾が弱り血を十分に作れなくなれば
心は血の不足から神を制御できなくなり
精神が不安定になったり、
発達が遅れたりします。
その他の症状として
飲食の減少や過多などの乱れ
味覚異常・便秘・四肢が痩せる
舌唇の色の血色が悪くなる
などの症状が現れます。


肝血虚(かんけっきょ)
肝は五志では怒りを主り
血を貯蔵し気血の流れを調える機能があり
肝が正常に働いていれば精神情志が安定されます。
しかし血の生成不足や激しい消耗のために
血が不足すればその働きが失調し
情緒が抑うつされ怒りっぽくなったり塞ぎ込んだりします。
その他の症状としては
眩暈、目が渇く、夜盲症、筋肉の痙攣
などがあげられます。


心肝血虚(しんかんけっきょ)
肝血虚が続き、
さらに血不足が進めばそれが心に波及し、
心肝血虚という病変になります。
そうすると肝血虚の症状と合わせて
血が心を栄養できないために
情志をまとめる働きが出来ず
ちょっとしたことで驚いて動悸し
恐れおののくといったパニック症状や
不眠、多夢、健忘、味覚障害などの症状が現れます。


肝腎陰虚(かんじんいんきょ)
腎は精を、肝は血を蔵する働きがあるが
「肝腎同源(かんじんどうげん)」
といわれ精と血は互いに
変化しあう関係にあります。
そのため肝血不足が腎に波及すれば
腎に蔵されている精を消耗してしまい
肝腎陰虚という病変になり
憂うつやイライラ、
筋肉の痙攣などの症状とともに
眩暈(めまい)・不眠・健忘・寝汗
などの症状が現れます。


心腎不交(しんじんふこう)
中医学では心(しん)は火を、
腎(じん)は水をそれぞれ主るとされ、
お互いに交流することによって
バランスを保っている関係にあります。
そのため腎の水が不足すれば
心の火を止められなくなり
心腎不交という病証になります。
心の火が昂(たか)ぶるため
精神的にイライラする・怒りっぽい
落ち着きがないなどの症状が現れる。
またその他の症状として
不眠・耳鳴り・発育不全
などの症状も現れます。

いずれも心を中心とした五蔵の機能失調が考えられます。
ただ同じ発達障害でも症状の個人差が激しく
どの様なストレス、感情に敏感なのかを
しっかりと観察し、五蔵の何処に
問題があるのかを見極める必要があります。



2.五遅五軟(ごちごなん)

「五遅五軟(ごちごなん)」とは東洋医学における発育不全のことで
五遅は立遅(りっち)・行遅(こうち)・髪遅(はっち)・歯遅(しち)・語遅(ごち)
の五つを表します。

立遅(りっち):
小児が生後一年たっても、一人で立ちあがることができないもの。

行遅(こうち):
小児が1才すぎても、甚だしい場合は2、3才になっても歩行ができないもの。

髪遅(はっち):
生まれた時に髪が無く、時が過ぎても長くならず、
長くてもまばらで、萎えて黄色いもの。

歯遅(しち):
10ヶ月たっても歯が出てこないもの。

語遅(ごち):
小児は通常2~3歳頃に触れる事物に対して
言語を用いて表現することができるようになる。
4~5歳位になってもまだ話すことができないもの語遅といいます。

五軟とは頭軟(ずなん)・項軟(こうなん)・手足軟(しゅそくなん)
肌肉軟(きにくなん)・口軟(こうなん)の五つを表します。

頭軟(ずなん):
頭を持ち上げられない
泉門(せんもん・新生児にある頭蓋骨の隙間、通常成長とともに閉じていきます。)
が閉じない。

項軟(こうなん):
首がすわらないこと。

手足軟(しゅそくなん):
手足は軟らかく無力となる。

肌肉軟(きにくなん):
五軟の一つ。脾は肌肉(きにく)を主ります。
肌肉とは表層にある筋肉のことで、
脾が虚せば肌肉は軟弱となり、痩せていく。

口軟(こうなん):
五軟の一つ。口唇は脾の主るところである。
小児が乳食不足によって脾胃が弱り、
口唇の色が淡白で、しっかり噛むことができず、
涎(よだれ)をたれ流すものをいう。

自閉症などでは言語の遅れが症状としてあります。
全然話せない場合から単語だけを話す場合までさまざまであり、
五遅のなかの語遅がこれに当てはまります。
五軟のなかの口軟もうまく口をうまく動かすことが出来ない
といった点で近いものがあると思います。
また、発達障害の児童には
運動機能の発育の遅れなども
一緒にみられることが多いなど
関係が深いと考えられます。

これら五遅五軟(ごちごなん)は
主に先天の精(せんてんのせい)と後天の精(こうてんのせい)が
大きく関係すると考えられています。

精(せい)とは五臓(ごぞう)の腎(じん)にしまわれ、
発育・成長・生殖に深くかかわっています。
精は先天の精と後天の精の二種類に分けられ、

先天の精は父母から受け継がれる精であり
後天の精は五臓の脾(ひ)で飲食物から作られます。
先天の精は出生前にすでに存在しており、
出生後は後天の精が先天の精を補充・滋養しています。


次に上記の内容を踏まえて
発達障害の弁証を
先天不足(せんてんぶそく)
後天不足(こうてんぶそく)に分けて
挙げていきます。


先天不足

腎精不足(じんせいぶそく)
早産・妊娠中の病・父母の体の虚弱などにより
胎児の時に精を消耗もしくは
もともとの総量が少ないなどのため
腎が弱り精を留める力も弱くなり、
五遅五軟の症状を呈する。
また脳は髄海(ずいかい)と呼ばれ
精によって栄養されるので
精神萎縮・忘れっぽい
などの症状も現れます。


後天不足

脾気虚(ひききょ)
飲食の乱れや嘔吐・下痢・発熱などの持続によって
脾が障害されれば後天の精を
飲食物から作ることが出来ないので
先天の精は後天の精による
補充を受けることが出来ず、
腎精不足と同じ症状を呈する。
この場合は最初に胃腸に関係する
症状が現れるのが特徴です。



3.五硬(ごこう)
五硬(ごこう)とは頭・頚・手足・胸などの筋肉が板状に硬くなり
体を動かすことが困難になることでひどくなるとけいれんを起こします。

自閉症の児童は手足や全身の筋肉の柔軟性が不足し
体に力が入りすぎて筋肉が硬くなることが多く
また癲癇(てんかん)を合併しけいれんなどを起こす場合もあります。
症状の一部に近いものがあったのであげさせて頂きました。

先に述べた五遅五軟は
先天もしくは後天などの不足が主な原因であり
虚実でいえば虚証に近いものであるのに対して
五硬は外部からの侵入してきた邪を
受けて発症するものが多く実証と考えられる。
ただし、事前に先天・後天の不足があれば
それだけ邪は侵入しやすくなるので
虚としての側面も考える必要があります。

胎寒による五硬
胎寒とは母体が妊娠中に生もの・冷たい物
脂っこいものを取り過ぎたり、
体を冷やしたりすることによってその冷えが
胎児を侵す病証で、
受けて五硬になる場合
特徴は新生児の皮膚が冷たく板のように硬く動かず、
泣き声が小さく力が無い・呼吸がよわい・哺乳できない
またひどくなるとけいれんなどを引き起こします。

風寒(ふうかん)の邪による五硬
風寒(ふうかん)の邪とは
風邪(ふうじゃ)と寒邪(かんじゃ)のことで、
六淫(りくいん)または六邪(ろくじゃ)と呼ばれる
風邪(ふうじゃ)・寒邪(かんじゃ)・燥邪(そうじゃ)
湿邪(しつじゃ)・火邪(かじゃ)の
6つの気象変化によって発生する病因です。
風邪は外に吹く風のような性質で
流動しやすく動き回る働きがあり
筋肉にけいれんなどの異常運動や
強い緊張をおこします。
また風邪は他の六邪と結びつきやすく、
他の邪と一緒に体に影響を与えます。
寒邪は冬の気であり、
寒冷と凝結(ぎょうけつ)して流れを留める性質があります。

風寒の五硬は風寒の邪が気血の通り道を塞ぎ
巡らないために発生し、
頭頂部、胸郭、筋肉、手足が冷えて板の様に硬くなる
などの症状が現れます。

肝脾不和(かんひふわ)による五硬
肝は筋を主り、血を貯蔵する働きがありますが
その血は脾で作られるため
飲食の乱れや嘔吐・下痢などによって
脾の働きが障害されると
脾は肝に血を補充することが出来なくなり
筋は充分栄養を得ることができず
四肢の冷えて硬い・筋のれん縮などが現れます。
またその他の症状として腹が硬い・食欲不振
腹部の静脈の怒張などが現れます。




西洋医学的見解

自閉症は発達障害の1つで
発達障害は脳機能の発達が通常と異なるために
幼児のうちから言語、行動、学習などに症状が現れる障害で
代表的なものとして
自閉症、アスペルガー症候群、
注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)
などがあげられます。
日本では2005年に発達障害者支援法が施工されており
比較的新しい病となります。

自閉症は発達障害の中の広汎性発達障害に分類されます。
広汎性発達障害とは
「言葉や認知面など、様々な領域において発達に遅れがみられる障害」
を指し自閉症以外にアスペルガー症候群などが含まれます。

自閉症とアスペルガー症候群は症状もよく似ておりますが、
違いは自閉症は言語発達の遅延があり知的障害を伴う場合多い、
逆にアスペルガー症候群は言語発達の遅れはないという特徴があります。
自閉症には3つの代表的な症状があり
「コミュニケーションの障害」
「対人関係・社会性の障害」
*「イマジネーション障害」
だいたい3歳くらいまでに上記の3つの症状がセットで現れます。

*イマジネーション障害
いつもと同じ状態に固執し、環境や行動で不測の事態が起こると
パニックになり本来できていた事が出来なくなってしまいます。

自閉症の人のうち約8割の人に知的障害があるといわれ、
てんかん(意識消失・筋肉の強い緊張やけいれん)を
合併しやすいことが知られています。

また必ず現れる症状ではないですが
よく見られる特徴として

多動
手を離すとどこに行くかわからない。落ち着きがなく
常に動いている。

睡眠異常
睡眠リズムの確立が遅く、
夜眠れない、途中で何回も起きる、
睡眠時間が異常に短いもしくは長いなどがあります。

感覚異常
特定の音や味・匂い・手触りなどを嫌がる。
このため偏食にもなりやすくなります。

常同行動
手をひらひらさせる、体を揺らす、
手で何かを叩き続けるなど一定の行動を繰り返します。
これらの行動は何かを訴えたかったり、
心理的な安定を求めている場合にあらわれることが多いです。

[記事]宮村

参考文献:
『中医基礎用語辞典』
『針灸学 基礎編』
『中医病因病機学』
『やさしい中医学入門』
『いかに弁証論治するか【続篇】
 漢方エキス製剤の中医学的運用』 東洋学術出版

『発達障害のいま』
『発達障害の治療法がよくわかる本』
『チックとトゥレット症候群がよくわかる本』 講談社

『図解よくわかる発達障害』
『はじめて読む自閉症の本』 ナツメ社

『発達障害』 日本評論社

『東洋医学概論』 医道の日本社

『症状による中医診断と治療』燎原社

『万病回春解説』創元社

 

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