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脱毛症の東洋医学解説


毛の発育と強さは東洋医学における
腎との関わりが非常に強いと考えられています。
腎気が弱ると髪が落ち、
脱毛症,円形脱毛症となります。
腎が落ちる事で髪が細くなり
パサパサして潤いが無くなって来ます。
また、ストレスで肝の気が上逆して内火を発生
上へと突き上げると
円形脱毛症が起こります。
 
これらは肝気をきちんと引き降ろし
腎気をしっかりと確保することで
治す事が出来ます。


脱毛症は、
中医学では「脱髪(ダッパツ)」という。
内経では「髪堕(ハツダ)」、
諸病源候論では「赤禿(セキトク)」や
「白禿(ハクトク)」に分けて鑑別している。
また、明・清では限局性の脱髪を
「油風(ユフウ)」と称しており、
時代により名称が異なる。

まず、毛髪についての
東洋医学での基本的な解釈について。

『本草綱目(ホンゾウコウモク)』
《著者:李時珍(リジチン)1590年》

”發(髪)乃血余。”

訳:髪は血の余という。



『本草備要(ホンゾウビヨウ)』
《著者:汪昂(オウコウ)1682年》

”發(髪)、一名血餘。”

訳:髪、またの名を血余という。

毛髪は血との関わりが深いと考えられる。
毛髪に艶があるのは血の働きが旺盛な証拠であり、
ここから髪は「血余」であると言われている。
老年以後で白髪が混り、
枯れて脱落しやすくなるのは
血が衰微するためである。

血について、
脈中を循行して濡養(ジュヨウ:栄養・滋潤)に働く
人体の構成成分の一つとなる。

『黄帝内経 霊枢:本神編(コウテイダイケイ レイスウ:ホンシンヘン)』

”肝蔵血・・・腎蔵精。”

訳:肝は血を蔵す・・・腎は精を蔵す。

血は
①中焦の脾胃(ヒイ:血の生成)
②蔵血を主る
 精血同源(セイケツドウゲン)から
③蔵精を主る
 との関係が深い。

精血同源とは
血と精(セイ:腎精のことで成長や発育、成熟や老衰を促す根本になる基)
がお互いに滋養し合っていることを現しており、
肝血の不足 ⇄ 腎精の欠損
互いに影響し合うことをいう。

『黄帝内経 素問:五蔵生成篇(コウテイダイケイ ソモン:ゴゾウセイセイヘン)』

”腎之合骨也。其栄髪也。”

訳:腎臓の配合は骨なり。その栄華(エイカ:反映されるところ)は髪なり。

以上のことから、
血が頭部を滋養できるかが
脱毛と深く関係する。

『黄帝内経 素問:上古天真論篇
(コウテイダイケイ ソモン:ジョウコテンシンロンヘン)』

”女子・・・五七陽明脈衰・・・髮始墮・・・
 男子・・・五八腎気衰、髪堕・・・八八則歯髪去。”

訳:女子は三十五歳になると陽明の脈は衰えて髪が抜け始める。
   男子は四十歳になると腎気が衰えはじめ、
   頭髪は抜け、六四歳になると歯と頭髪も抜け落ちる。

上記のように男女が年齢と共に
生理的に起こり得た脱毛は病因には含まない為、
ここでは病理的な脱毛について以下に説明します。


《弁証論治》

【虚証】

気血両虚証(キケツリョウキョショウ)

『黄帝内経 霊枢:決気篇(コウテイダイケイ レイスウ:ケッキヘン)』

”中焦受気取汁、変化而赤、是謂血。”

訳:中焦で消化吸収されて赤く変化したものを血という。


『侶山堂類辨(ロザンドウルイベン)』
《著者:張志聰(チョウシソウ)1633年》

”血乃中焦之汁”

訳:血はすなわち中焦(脾胃)の汁

水穀(スイコク:飲食物)
胃が受納(ジュノウ)・腐熟(フジュク)・和降(ワコウ)(食べ物を受け取り(受納)消化して(腐熟)小腸に受け渡す(和降)
により脾の昇精作用(ショウセイサヨウ:栄養物を上焦に受け渡す)をスムーズに行えることで気血は生成される。

長患いなどにより
気と血の両方が消耗された場合に、

気の推動作用(スイドウサヨウ:押し動かす)
血の濡養作用(ジュヨウサヨウ:栄養を与え潤す)
両方が衰えてしまい
髪の毛を養えなくなることで脱毛となる。

主に中焦(脾胃)の機能低下によるものが多い。

年齢に関係なく慢性病や産後などに発病しやすく、
毛髪は乾燥して脱毛はまばらになりやすい。

治法:
気血双補(キケツソウホ)
・補気法(ホキホウ)と補血法(ホケツホウ)を同時に行う。



肝腎陰虚証(カンジンインキョショウ)

『諸病源候論:鬚髪禿落候(ショビョウゲンコウロン:シュハツトクラクコウ)』
《著者:巢元方(ソウゲンホウ)550年~630年》

”足少陰、腎之經也、其華在髮。
  若血盛則榮受於鬚髮、故鬚髮美。
  若血氣衰弱、經脈虛竭、不能榮潤、故鬚髮禿落。”

訳:足の少陰腎経の様子は髪に現れる。
  もし血が盛んで栄気を養うことができていればヒゲや髪は美しくなる。
  もし気血が衰えてしまえば、経脈は衰え、
  栄気を養うことができずヒゲや髪は抜け落ちてしまう。

肝腎の陰液(インエキ:人体内に存在する栄養分のある全ての水液のこと)が少なくなり
陰虚内熱(インキョナイネツ:潤いを与える作用が少なくなり相対的に熱の作用が強くなること)
が生じて髪の毛を養えなくなることで発症する。

成人に多く、毛髪は細く柔らかくなり、
頭部に油脂が多くなることが特徴。

治法:
滋陰降火(ジインコウカ)
・虚熱(キョネツ:体を冷ます作用のある陰液が消耗することで相対的に陽気が亢進した状態)を清し、
 陰血(インケツ:潤いや栄養の基)を補う。



腎気不固証(ジンキフコショウ)

『金匱要略:血痺虚労病篇(キンキヨウリャク:ケツヒキョロウビョウヘン)』
《著者:張仲景(チョウチュウケイ)3世紀初期》

”夫失精家、小腹弦急、陰頭寒、目眩、髪落”

訳:失精(シッセイ:精液が漏れ出る)者は、下腹部が張り、
  陰部が冷え、めまいするもの、髪が抜け落ちる。

全体的に髪が細くなる傾向にある。

治法:
補腎(ホジン)
・腎気(生殖や生長発育を促す気)を補い
 納気作用(気が漏れ出ないようにする作用)を高める


【実証】

血熱証(ケツネツショウ)

精神的なストレスなどから
血分(ケツブン:体の深部)に熱、
あるいは熱邪※六淫の一つ)が血分に侵入することで
陰血を消耗して髪の毛を需要できなくなる。

※六淫とは風・寒・暑・湿・燥・火(熱)と呼ばれる
自然界の成長や発育などを促す六気が乱れた状態をいう。

突然頭髪が、限局性に、
円形や楕円形の脱毛が生じ、
患部に痒みがある。
自覚症状は感じにくい。

治法:
清熱涼血(セイネツリョウケツ)
・熱を冷まし血の滋養を高める。



気滞血瘀証(キタイケツオショウ)

『医林改錯(イリンカイサク)』
《著者:王清任(オウセイジン)1768~1831》

”新血不能養髪、故髪脱落。”

訳:新しい血が髪を養えないと、髪が抜け落ちてしまう。

気滞(キタイ:気の流れが滞る)により血が滞り、
瘀血(オケツ:経脈外に溢れて留まった余分な血液)を形成して血が頭部を滋養できなくなる。
頭髪が部分的あるいは全体が脱毛し
ヒゲや眉の脱毛を伴うことがある。

治法:
活血化瘀(カッケツカオ)
・瘀血を取り除き血の流れをスムーズにさせて頭部の滋養を高める。


西洋医学的見解

現代で言われる円形脱毛症とは
後天的に発症する毛の抜ける皮膚病を現す。

多くの場合、痛みやかゆみなどの自覚症状を感じること無く、


突然頭髪が抜けてしまう。

原因は不明とされているが
以下の可能性が挙げられる。

・自己免疫疾患との併発
・アトピー素因
・精神的ストレス
・遺伝的要素
・出産後のホルモン値の変化

【脱毛の種類】

・単発型円形脱毛
頭髪の1~2箇所脱毛する。

・多発型円形脱毛
単発型と比べると患部が多く、
各所の脱毛が拡大して繋がり大型の脱毛になることもある。

・全頭型脱毛
頭髪がほとんど脱毛する。
多発型が広がって全頭型になる場合や
急速に頭髪全体が抜ける場合がある。
後者の場合は手で髪に触れば触るだけ抜ける激しい脱毛である。

・蛇行型脱毛
頭髪の生え際を一周するように
数センチ幅の帯状の脱毛がみられる。
患部が一つか二つの場合は自然に治ることも多い。

【治療】

・服薬
抗アレルギー剤
セファランチン(アレルギー反応抑制・血流促進)
グリチロン(抗アレルギー・抗炎症

・
塗り薬
ステロイド剤

[記事:本多]

参考文献:
『中医弁証』
『傷寒雑病論』
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』

『黄帝内経 霊枢』
『黄帝内経 素問』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『症状による中医診断と治療』 燎原書店

この症状の治療体験談

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